マイクロソフトとアップルを抜き時価総額が米国企業で一時最大になった半導体企業エヌビディアだが、一般には意外に知られていない。ブランドコンサルティング大手の米インターブランドによると、世界で最も価値のあるブランドはアップル。マイクロソフト、アマゾン、グーグルが続く。半導体大手インテルは24位に入ったが、トップ100にエヌビディアはない。CNBCは、一握りの大手企業のAI(人工知能)需要で株価は急伸、消費者との接点の欠如で無名だと報じた。英フィナンシャル・タイムズ紙は、社名を正確に発音できず、AIにどう寄与しているのか知らない個人投資家がエヌビディア株を買っていると伝えた。
知名度の低いエヌビディアの株価上昇は驚異的だ。2022年後半に10ドル台(株式分割調整後)まで売り込まれたエヌビディアの株価は一時130ドルを超えた。時価総額の大きい企業の「テンバガー(株価が10倍になった銘柄)」化は異例といえる。CNNビジネスは、エヌビディア株に火が付いたが、市場全体はバラ色ではないと伝えた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、エヌビディアの成功は株式市場の問題になったと報じた。中小型株の指数ラッセル2000は2021年11月の高値から17%低い水準にあり、銘柄ごとの時価総額の大小の影響を除いたS&P500種均等加重指数の水準は22年初の水準にとどまっていると指摘、主要指数のエヌビディア依存は大きいとしている。
19日の奴隷解放記念日(ジューンティーンス)後の2日間。エヌビディアの株価は突然不安定化した。2日間の下落率は7%近くと大きかった。21日の取引では、エヌビディアの下げが圧迫し、クアルコム、ブロードコム、マイクロン・テクノロジーなど幅広い半導体銘柄が売られた。ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、エヌビディア株が割高になりつつあると伝えた。2000年に時価総額が最大になったシスコシステムズほどではないが、今後4四半期の見通しで算出した予想株価収益率は45倍近くと、ドットコム・バブルでみられたような水準に上がったとしている。セルサイドのアナリスト4人は目標株価を160ドル以上に引き上げたものの、投資家の注意すべき水準だと伝えた。
AIブームを背景にエヌビディア1社が株式市場を支える。ファクトセットのデータを基にしたCNBCの調査によると、S&P500種株価指数が2.05%を超える下げを記録しない取引日は連続377日となり、2008年の金融危機以降で最長になった。恐怖指数と呼ばれるVIXは13台前半と歴史的な低水準。エヌビディア株の不安定化は一時的か。慎重な投資家が増えれば、主要指数を圧迫する可能性がある。
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福井県出身、慶應義塾大学卒。1985年テレビ東京入社、報道局経済部を経てブリュッセル、モスクワ、ニューヨーク支局長を歴任。ソニーを経て、現在は米国ロサンゼルスを拠点に海外情報を発信する。