【QUICK Money World 辰巳 華世】東京証券取引所の3つの市場のうちの一つである「東証グロース市場」。今回は東証グロース市場がどういう市場なのかの基本的な説明から、他の市場との違いや、旧東証マザーズ指数が東証グロース市場250指数に名称を変更した経緯、東証グロース市場の銘柄に投資するメリットなどについて紹介します。
東証グロース市場とは?
新興企業向けの市場
グロース市場とは東京証券取引所が旧市場区分を見直し、2022年4月の移行で誕生した新しい市場区分の一つです。東京証券取引所には現在、プライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの市場区分があります。その中で、グロース市場は新興企業向けの市場です。3つの市場の中では、株式を公開しやすくするために新規上場基準が最も低く設定されています。早い段階から企業が証券市場からの資金調達ができるようにすることで、企業の早期成長を促す目的で東証グロース市場は設けられました。
東証グロース市場の特徴
グロース市場は、新興企業など成長可能性の高い企業向けの市場です。相対的に小規模の会社の上場を想定しています。そのため、プライム市場やスタンダード市場に比べると上場の条件は低めになっています。具体的には、株主数150人以上、流通株式数1000単位以上、流通株式時価総額5億円以上、売買高は月平均10単位以上となっています。流通持株比率は25%以上です。
東証グロース市場に投資するメリットとは?
東証グロース市場に上場する企業は新興企業が中心です。かつてのマザーズやJASDAQグロースに上場する規模の企業が対象です。株式上場で資金調達し、その資金をもとにさらなる成長が期待できる銘柄が多くあります。投資家からすると、企業の成長力によっては株価の変動率が高く、大きな値上がり益が期待できるという点で投資のメリットがあります。
また、成長していく中でいずれ東証の最上位市場であるプライム市場に移行するなどさらなる飛躍も期待されます。実際、フリーマーケットアプリのメルカリ(4385)は、22年6月7日にグロース市場からプライム市場に移行し注目を集めました。現在グロース市場に上場している会計ソフトのフリー(4478)などもプライム市場の上場基準を満たしておりプライム市場への移行に期待が高まっています。
東証グロースを含む3種類の市場
東証には、2022年4月からプライム市場・スタンダード市場・グロース市場の3つの市場があります。それまでは、市場第一部・市場第二部・マザーズ・ジャスダック(スタンダード及びグロース)の4市場でした。
東証が市場を3市場に再編をした理由はいくつかありますが、その一つはこれまでの市場区分だと各市場のコンセプトが曖昧だったことがあります。新興企業が上場する市場として以前はジャスダックとマザーズの2市場がありその区分けが曖昧でした。東証グロース市場は、従来の市場区分のジャスダックとマザーズが集約した市場になります。
新しい市場区分では、各市場のコンセプトを明確にすることで、所属する企業が市場維持のための持続的成長と企業価値向上に積極的に取り組む仕組みになっています。
「東証マザーズ指数」は「東証グロース市場250指数」に
東証再編によってマザーズ市場が廃止されたあとも、「東証マザーズ指数」は継続して算出されていました。同指数に関しては、市場再編後も算出を継続するよう要望が複数あったため、投資対象としての機能性を更に向上させたルールへ変更しつつ、市場再編後も指数の算出を継続していました。
東証が再編した4月4日時点では、マザーズに上場していた銘柄全てを指数構成銘柄として引き続き算出し、5月末からマザーズ以外から東証グロース市場を選択した銘柄を2段階で追加しました。そして、10月末から時価総額上位250銘柄を選定し、251位以下の銘柄とグロース市場以外の市場に上場する銘柄を除外しました。
東証は23年11月6日に「東証マザーズ指数」を「東証グロース市場250指数」に、大証は「東証マザーズ指数先物」を「東証グロース市場250指数先物」に、それぞれ名称変更しました。
東証グロースと他の市場との違い
東証のプライム市場・スタンダード市場についても見てみましょう。
・プライム市場
東証プライムは、3市場の中で最も上場基準が厳しい最上位の市場です。上場維持基準は、流動性では、株主数が800人以上、流通株式数2万単位以上、流通株ベースの時価総額が100億円以上、時価総額250億円以上であり、平均売買代金0.2億円以上であることが必要です。
より高いガバナンス水準と投資家との建設的な対話の実践も求められています。そのため市場で流通する株式比率(流通株式比率)が35%以上必要です。ここで言う流通株式では、上場株式のうち国内の都市銀行や地方銀行が保有する株式は除外します。役員の配偶者と2親等内の血族、役員などが議決権の過半数を保有する会社や、関係会社とその役員といった「特別利害関係者」の保有株式も流通株式から除きます。従来通り、発行済み株式の10%以上を所有する主要株主や自己株式なども流通株から外します。
高いガバナンス(企業統治)水準も求められています。具体的には、社外取締役は現行の2人以上から取締役の3分の1以上とすること。また、気候変動に係るリスクや機会が自社の事業活動や収益等に与える影響について、「気候関連財務情報開示タスクフォース」(TCFD)またはそれと同等の枠組みに基づく開示をすることなどが求められています。
海外市場と比べても見劣りしない上場条件にすることで、グローバルマネーを積極的に呼び込みたい狙いがあります。
・スタンダード市場
スタンダード市場は、国内向けの市場で「日本経済の中核」と位置付けられている企業向けの市場です。海外マネーなど多様な機関投資家が投資しやすい厳しい基準をクリアした銘柄が多いプライム市場に対し、スタンダード市場では、一般的な投資家が円滑に売買を⾏うことができる適切な流動性があることを求めています。
具体的には株主数が400人以上、流通株式数2000単位以上、流通株式時価総額10億円以上、売買高は月平均10単位以上となっています。流通株式比率は25%以上です。
<前半のまとめ>東証グロース市場は東証3市場の中でも新興企業向けの市場です。東証グロース市場は、従来の市場区分のジャスダックとマザーズが集約した市場になります。東証グロース市場に上場する企業は株価の変動率が高く、今後の成長に期待して投資するメリットがあります。 |
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東証グロースに上場して得られるメリット
東証グロースは新興企業向けの市場です。企業にとって東証グロースに上場するメリットを3つ見てみましょう。
人材確保や従業員のモチベーションアップにつながる
株式を上場することで得られるメリットの一つに企業の知名度が上がることがあります。企業知名度の向上は、従業員たちのモチベーションアップに繋がります。また、企業の名が知れることで、優秀な人材が集まりやすくなります。
資金調達力の向上
上場するメリットには資金調達力の向上もあります。上場することでその企業の株式を証券取引所で売買することができます。広く多くの投資家が市場で株式を購入できるようになり、企業にとっても上場後の方が資金調達がしやすくなります。未上場の場合でも株式を発行して資金調達することは可能ですが、一般的には未上場の株式を買いたい投資家は直接その企業とやり取りをしなければならず限られた投資家からの資金調達となるケースが多いです。
企業内の管理体制の向上
上場企業は、四半期ごとの決算の開示が義務として求められています。また、上場企業としての企業のガバナンス体制や内部管理体制も求められます。東証グロース市場は東証3市場の中では最も上場基準は低いですが、それでも上場企業として企業の管理体制が強化されるため、盤石な組織基盤が作られていきます。
東証グロース上場において留意すべき点
東証グロースに上場する際に企業が留意すべき点を3つ紹介します。
上場のためのコスト問題
株式上場には上場準備から上場後もある程度コストがかかります。
決算書には監査が必須になり監査法人との契約が必要です。また、上場までの資本政策を考え上場時のサポートをしてくれる主幹事や幹事団など証券会社との取引、株式事務代行機関など様々な外部機関と取引する必要がありコストがかかります。
買収リスクへの懸念
上場企業になると、市場で広く多くの投資家がその企業の株式を購入することができます。企業にとっては資金調達の幅が広がるメリットがありますが、一方で、株式を買い集められ買収されるリスクも出てきます。なので、常に買収されるリスクを持っていなければなりません。敵対的買収への対策も考えておく必要があります。買収防衛策には様々なタイプがあります。例えば、従業員持ち株会に自社株式を保有してもらうなど株主の安定化をはかったり、有利な条件で株式を追加購入できる権利を敵対的買収者以外の株主に与えるなどの仕組みポイズンピル(毒薬条項)を導入したりします。買収対策には、手間も時間もお金もかかります。
株主への配慮
上場企業になると広く多くの投資家が株主となります。そのため、投資家に向けた円滑なコミュニケーションが必要になります。投資家に対する有価証券報告書や四半期報告書の発行にもコストがかかります。多くの投資家が興味を持つ配当政策や株主還元をどうしていくのかなども考えていく必要があります。
また、円滑な株主総会運営などの対策も必要です。株主は企業の方針や業務に対して意見することができるようになるため株主への配慮が大切になります。必ずしも友好的な株主ばかりとは限らない中、最近では「物言う株主」と言って、会社の経営方針や様々な事柄に意見する投資家も増えているので対策が必要になってきます。
まとめ
東証グロース市場は、新興企業向けの市場です。かつてのマザーズやジャスダックに上場する規模の企業が対象です。株式上場で資金調達し、その資金をもとにさらなる成長が期待できる銘柄が多くあります。
東証マザーズ指数は2023年11月6日に「東証グロース市場250指数」に名称変更しました。
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