【QUICK Money World 辰巳 華世】原油価格は経済や株式相場と密接に関係しています。例えば、足元のインフレの要因の一つに原油高があります。原油の価格はどう決まるのでしょうか?経済や株式相場にどう影響するのでしょうか?今回は原油価格について基本的な説明から原油価格と株価の関係、経済との関係、知っておきたい原油の基本について説明します。
原油価格の話の前に、そもそも原油とは何か?について確認しましょう。原油とは、油田から採掘したままの状態で、精製されていない石油のことです。私たちが暮らしで使うガソリンなど石油製品のもととなる資源です。原油を蒸留・精製することで石油製品ができます。石油製品は、ガソリンやLPガス、灯油、ジェット燃料、重油、軽油などいくつか種類があります。
「原油価格」とは?
原油価格とは、原油を取引する際の価格です。原油価格は一つではありません。大きく分けて3つの指標があります。原油が出る地域は世界の一部に限られており、原油国は輸出する地域ごとに指標を使い分けています。
一般的に欧州では北海ブレント原油、米国ではWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)原油、アジアではドバイ産を基準とします。指標原油はそれぞれ市場で毎日取引されています。需要と供給のバランスで変動します。時として投機的資金などでも価格が上下します。
3つの原油指標の中でも株式市場ではWTIが重要視されています。WTIは取引量および市場参加者が多いこともあり影響力が大きいとされています。WTIと他の原油指標の相関も強く、WTIが上がれば、他のドバイ、ブレントも上昇する傾向があります。
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世界経済、金融市場、原油価格は密接に関係しています。経済と原油価格は、双方がともに影響を与えます。例えば一般的に景気が良ければそれだけ原油需要は高まるので原油価格は上昇します。一方で、原油高が原因で景気に影響を与えることもあります。ここ最近の世界的なインフレの一因は原油高もあります。
コロナ禍以降、世界ではインフレが加速しました。コロナ禍からの経済のV字回復や各国の金融政策対応などインフレになった理由はいくつかありますが、インフレが加速した一つのきっかけは原油高です。2022年2月にロシアによるウクライナ侵攻が始まりました。世界有数の資源の輸出国であるロシアによる軍事侵攻は商品価格を高騰させました。
景気動向は金融市場に影響を与えます。原油高が一因となってインフレが進んだことで金融市場では、世界経済に対し警戒感が高まりました。
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原油価格はなぜ動く?
原油価格は、それぞれ市場で毎日取引されています。需要と供給のバランスで変動します。また、投機的資金などでも価格が上下します。
需要と供給についてみてみましょう。需要面では、世界経済の動向、特に主要国の経済活動動向、石油製品の動向などで価格が動きます。景気が活発であればそれだけ原油の需要も高まり価格も上昇します。一方で、景気悪化などで原油の需要も低くなれば、価格は下落します。新型コロナウイルス感染症拡大による景気の悪化懸念で2020年3月に原油価格は急落しました。4月にはWTI原油価格が史上初の「マイナス」になるなど異常事態に陥りました。世界経済の急減速で石油の需要が落ち込むとの見通しから損失覚悟の売りが膨らんだためです。
供給面では、原油国や石油輸出機構(OPEC)による計画減産、原油国の地政学リスクなどが影響します。供給が減ればそれだけ価格が上がることになります。一方で、新しい技術革新によるシェールオイルなど新たな油田の開発は供給増となり価格低下になります。
原油価格と株式相場の関係
ここでは、原油価格と株式相場の関係について見てみましょう。
原油価格と株価の相関は必ずこうなるという答えがあれば良いのですが、実際は、正相関もあれば逆相関もあるというのが現実です。
例えば、景気が良く、原油需要の高まりから原油高となり、好景気を反映して株価も上昇、「原油高・株高」となることがあります。一方で、原油価格が上がれば、それだけ企業活動でコストも上昇するので企業業績の下振れ要因になり、株価は下落する「原油高・株安」になることもあるのです。
特に最近の世界経済は様々な要因が複雑に絡みあっていることもあり必ずしも教科書的な動きにならないことが多々あります。その時々で何が一番大きく影響したのかなど細かく分析して判断していく必要があります。
ここでは、原油と株価の相関パターンを2つ見てみましょう。
原油高・株高のケース
日本では20年3月に新型コロナウイルス対策の特別措置法が成立しましたが、国内外で新型コロナが急速にまん延し、株式相場や原油相場など世界の相場は急落しました。その後、徐々に経済活動も再開され需要の回復とともに原油価格もゆるやかに上昇を続けました。景気回復期待から日経平均株価も時間の経過とともにゆるやかに上昇し原油高・株高の構図がしばらく続きました。
新型コロナの感染拡大で、世界的な景気の悪化や原油需要の落ち込んだことにさまざまな要因が重なり、20年4月にWTI原油先物価格が一時的にマイナスとなる異例の事態も起きました。
原油価格と株価の関係は、景気回復の話だけではなく投資マネーも関わっています。原油高となれば、石油収入が増える中東など原産国のオイルマネーが株式などにまとまった資金を振り向けることが株式相場の上昇要因の一つになる構図です。
<20201月〜2022年12月 原油と日経平均株価>
※原油価格と日経平均株価の相対チャート。(2020年始を100として指数化)
原油高・株安のケース
2022年に入ると状況が変わりました。2月にロシアによるウクライナ侵攻が起こり、原油相場は急騰しました。一方で、日経平均株価は、低迷。地政学的リスクの高まりや世界的なインフレ加速による景気減速懸念などから株安に繋がりました。
原油高・株高の構図にならなかったのは、原油が需要の高まりからゆるやかに上昇したのではなく、ロシアのウクライナ侵攻による原油の供給不足不安など特殊な要因によって急騰したことが大きな要因と言えそうです。
<2020年1月〜2024年8月 原油と日経平均株価>
※原油価格と日経平均株価の相対チャート。(2020年始を100として指数化)
一時、高騰した原油相場でしたが、足元ではいったん落ち着きを取り戻したように見えます。最近では株価と正相関で推移しているようです。
今後の注目ポイントとしては、脱化石燃料の流れがどれくらいの速度で進むかです。長期的にみて再生可能エネルギーの普及が広がれば、原油需要が下がり価格が低下するとの見方があります。
原油高と株価の関係では、業種や銘柄によっても影響が異なります。原油高の恩恵を受ける業態やそうではない業態などがあります。
原油価格の影響を受けやすい業種や銘柄は?
原油価格の影響は業種や銘柄によって異なります。
原油高の恩恵を受けやすい(株価が上がりやすい)業種や業態
原油高がプラスとなる業種には、「鉱業」があります。原油などの権益を持ち、原油価格上昇で収益が拡大します。INPEX(1605)、石油資源開発(1662)、三井松島ホールディングス(1518)、K&Oエナジーグループ(1663)、住石ホールディングス(1514)があります。
「石油開発・精製」関連銘柄も原油高はプラスです。石油元売り会社は、石油備蓄法によって石油を備蓄しているので、期末の在庫評価額が利益を押し上げます。富士石油(5017)、INPEX(1605)、石油資源開発(1662)、出光興産(5019)やENEOSホールディングス(5020)があります。
卸売の三菱商事(8058)、住友商事(8053)、三井物産(8031)など総合商社も原油高はプラスになります。
原油高が逆風になりやすい業種や業態について
原油高が逆風になりやすい業種は、空運、陸運、海運など運送業があります。日本航空(9201)、ANAホールディングス(9202)、日本郵船(9101)の場合で14億円程度、商船三井(9104)などです。
原油が原材料となる化学業界なども原油高はマイナスです。塗料大手の日本ペイントホールディングス(4612)、樹脂製品製造の住友ベークライト(4203)などがあります。
紙・パルプ業界も影響を受けそうです。王子ホールディングス(3861)、日本製紙(3863)、三菱製紙(3864)などがあります。
電気・ガス業でも原油高でコスト高となり影響を受けます。中部電力(9502)、関西電力(9503)、東京ガス(9531)、大阪ガス(9532)などがあります。ただ、電力・ガスはその後の価格転嫁で補える可能性があります。
原油に投資するなら?
ここまで株式投資における原油の見方について説明してきました。実は原油は原油に投資をすることも可能です。ここでは、原油に投資をする方法について紹介します。
原油への投資方法はいくつか種類があります。一般的には原油そのものを直接買うというよりは、原油先物取引や原油関連の上場投資信託(ETF)や投資信託、差金決済取引(CFD)を通じて投資する形になります。
ただ、原油へ投資する場合は注意したい点があります。原油関連の取引はハイリスク・ハイリターンの商品なのでその点は十分に気をつけて投資をしましょう。
原油価格の動向をチェックしよう!
原油価格とは、原油を取引する際の価格です。株式市場ではWTIの指標が注目されています。原油価格は、市場で毎日取引されています。需要と供給のバランスで変動します。また、投機的資金などでも価格が上下します。原油価格は経済や株式相場と密接に関係しています。原油価格の動向をチェックして経済や株式相場への影響を確認しましょう。
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