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米大統領選を終えて:トランプ氏は「米国を取り戻す」(フィデリティ投信 重見吉徳氏)

記事公開日 2024/11/13 16:00 最終更新日 2024/11/13 17:27 米国・欧州 フィデリティ 大統領選 米政治

※この記事はフィデリティ投信のWebサイトで11月7日に公開されたコラムの転載です

 

「本日、このホールに集う各国の皆さんも、私が愛してやまない自国がそうであるのと同様に、守るべき、そして祝福すべき価値のある、また、私たちに独自の可能性と強さを与えてくれる、大切な歴史、文化、そして伝統を持っておられます。

自由な世界は、国家という基盤を抱いていなければなりません。それを消去したり置き換えたりしようとしてはいけません。

この大きくて素晴らしい地球の周りを見渡せば、真実は明白です。自由を望むなら、あなた自身の国に誇りを持ちましょう。民主主義を望むなら、あなた自身の国の主権を守りましょう。そして、平和を望むなら、あなた自身の国を愛しましょう。賢明なリーダーは常に、自国民と自国の利益を最優先します。

未来はグローバリストのものではありません。未来は自らの国を愛する人たちのものです。未来は、国民を守り、近隣諸国を尊重し、それぞれの国を特別でユニークなものにしている違いを尊重する主権国家と独立国家のものです。

国家の真なる善は、その国を愛する人々によってのみ追求できます。言い換えれば、(国家の真なる善は)その国の歴史に根ざし、その国の文化に育まれ、その国の価値観にその身を捧げ、国民に愛着を持ち、その国の未来を築くのも失うのも自分たち次第であることを知っている国民によってのみ追求できます。自らの国を愛する人たちは、他の誰にもできない方法で国家とその運命を見ているものです。

自らの国を愛する人たちの意志と献身によってのみ、自由は守られ、主権は確保され、民主主義は維持され、偉大さは実現されます。彼らの精神には、抑圧に抵抗する力、伝統を築くインスピレーション、友情を求める善意、平和を目指す勇気が宿っています。国家への愛は、すべての国にとって世界をより良くします。

ですから、今日ここに集うすべてのリーダーの皆さん、人類が持ちうる最もやりがいのある使命、誰もが果たせる最も意義深い貢献に私たちと共に参加してください。すなわち、あなたの国を高めてください。あなたの国の文化を大切にしてください。あなたの国の歴史を称えてください。あなたの国民を大切にしてください。あなたの国を強く、繁栄し、正義に満ちたものにしてください。あなたの国民の尊厳を尊重すれば、あなたの手の届かないものは何もありません。」

(トランプ大統領の第74回国連総会における演説より一部を引用、2019年9月25日)

6日の金融市場はトランプ氏の政策に沿った動き

11月5日に投開票が実施された米国の大統領選挙では、CNN、ABC、CBS、NBC、ニューヨーク・タイムズ紙、ワシントン・ポスト紙などの主要メディアが、トランプ氏の当選確実を出しました。また、上記のメディアによれば、上院は共和党が過半数を確保し、下院についても共和党が過半数に近づいています。

11月6日の金融市場では、日米株式ともに上昇、米国株式市場では中小型株式が大型株式にアウトパフォームし、大型株式のセクターでは金融・一般消費財・資本財・エネルギーといった景気敏感セクターが指数全体をアウトパフォームしました。

米国債利回りは長期ゾーンを中心に上昇(→価格は下落)、ドルも上昇となりました。仮想通貨も総じて大幅な上昇でした。

他方で、原油やゴールドなどの商品・コモディティはおおむね下落しました。

総じて、トランプ氏の政策(→米国内での生産・雇用を促進、減税延長・財政拡大、原油増産、環境投資の後退、仮想通貨支持)に沿うような動きだったと言えるかもしれません。

6日の株価上昇が大幅であり、また、金利の大幅上昇を伴っている分、目先はいくぶんの調整が生じる可能性を想定しておくことが良いでしょう。

S&P500と米国10年国債利回り

選挙結果はまだ確定していませんが(→大統領選挙の選挙人投票は、2025年1月6日の上下両院合同会議)、以下では、トランプ氏が大統領に当選し、上下両院を共和党が過半数を得たという前提で議論を展開します。下院を含め、未確定である点にご留意願います。

トランプ氏の政策は米国の経済や企業業績にプラス

公約をながめるかぎり、トランプ氏が掲げる外交・経済・通商政策は(全体としてみれば)米国の経済や雇用、そして、幅広い企業の業績にとってプラスに作用する可能性があります。

たとえば、【法人税や所得税の減税延長】は、企業業績の目減りを防いだり、個人消費を下支えしたりする可能性があります。

【エネルギー生産の拡大】は、企業の生産コスト減少や家計の購買力回復につながる可能性があるでしょう。その他の【規制緩和】や【輸入関税の引き上げ】は、米国を含む世界各国の企業に、米国内での生産や設備投資、そして雇用を拡大させる可能性があります。

他方で、【輸入関税の引き上げ】は生産コストや物価上昇につながります。ただし、米国の企業は、新型コロナウイルス・パンデミックとロシア=ウクライナ戦争を通じ、生産コストの上昇を販売価格に転嫁できることを証明しています。同時に、家計は実質賃金の伸びによって消費を拡大・維持できることを証明しています。実際のところ、バイデン政権下で消費の主役は富裕層と考えられています。しかし、トランプ新政権に移行し、(不法移民ではなく)米国民の雇用や所得の拡大が実現されると、消費の主役は中間層にシフトする可能性があるでしょう。また、中間層の消費拡大は中小規模の企業にも恩恵をもたらすでしょう。

たしかに、【不法移民の強制退去】や【国境警備の強化】は、米国内の労働力不足や、賃金・物価の上昇につながる可能性があるでしょう。他方で、米国の市民にとっては、治安の安定や、伝統・文化・日常生活の保護に関する安心感(=いわば「米国を取り戻す」安心感)が、日常の精神的な負担を大きく軽減するとみられます。日常生活に平和が戻ることは、労働や消費、娯楽に対する意欲を回復させる可能性があるでしょう。

【ロシア=ウクライナ戦争の終結】も(もしトランプ氏が、外交・国防官僚や、共和党の一部の連邦議会議員による「エスタブリッシュメント支配」を打破し、戦争終結を完遂できるならば)、米国民の負担感と実際の負担の両方を大きく減らすでしょう。

ほかにも、ロバート・ケネディ・ジュニア氏が政権入りすれば、米国の巨大な製薬・テクノロジー・農化学・食品・軍需企業等による経済・利益の独占的支配や、米国民からの購買力と健康の搾取を終わらせる政策を進める可能性があります。競争環境の回復は、巨大な独占企業には不利に働きます。他方で、中小・零細の企業には収益と成長の機会をもたらし、経済全体にとってはイノベーションの可能性を広げます。また、安心・安全な食品や医薬品の開発・製造・提供や、不要な医療・医薬品の提供を終わらせることは、国民の健康や健康寿命を促進することで、労働力の増加や社会保障費の大幅削減につながるでしょう。

加えて、イーロン・マスク氏が政権入りし、官僚体制が打破されれば、コスト削減や政府業務の効率化、(大企業を含む)既得権益の解体が実現する可能性があります。これは、財政赤字の削減や生産性の向上に作用する可能性があるでしょう。

いずれも簡単ではありません。そして、実現するとしても相当の時間がかかるでしょう。

しかし、これまでの(一般庶民にばかり「しわ寄せ」がいく)大企業や官僚による統治が終わる可能性が少しでも見えたことは、米国民にとって、自国や経済への信頼感を取り戻すことにつながるでしょう。そして、そうした信頼感が中期的な経済の活性化と、株価の上昇につながるでしょう。

All roads lead to inflation:誰が大統領でも。

次期大統領が誰であっても、ほぼ確実と言えることは、米国のインフレです。

すでに、米国の連邦政府債務(GDP比)は第2次世界大戦時並みです。また、利払い費は軍事費を上回っており、欧州と中東の2方面での大規模な戦争を支援するなか、米国の一国覇権にも赤信号が灯っています。

米国:連邦政府債務残高(GDP比)

米国の国防費と利払い費

増大する債務を、米国民が増税や歳出削減によって負担することはほとんど不可能とみられます。

なぜならば、米国内は、伝統的な価値観から最小限の政府介入を望み、ウクライナ支援ではなく国内のハリケーン被害者への支援を望むような保守の低所得有権者が多く存在する一方、リベラルを標榜しつつも自らの所得税(法人税も)を減らすことを議会議員に働きかけ、(大企業は安価な労働者としての不法移民に頼りつつ)移民が自分の裏庭に来ることは拒む(“not in my backyard”の)ような富裕層の有権者が少数ながらも政治に対する大きな力を持っているためです。前者は税負担の能力がなく、後者は税負担の意思がありません。

ただし、自国通貨建て債務がデフォルトすることはありません。歴史が示すとおり、連邦政府債務の増大は中央銀行(FRB)によって引き受けられ(→また、それまでには、日本もその他の先進国も、米国の肩代わりとしての米国債の引き受けや軍事支出の増加などで、米国と同様の状況に陥り)、政治力のない一般有権者に大きなインフレが負担されることになるでしょう。

ちなみに、日本の政治や権力の構造は米国とまったく変わらないと言って良いでしょう。米国の一般有権者同様に、政治力のない、われわれ日本人は、投資家としてはインフレに備え、家計としては米国のような状況になる(→なにかと生きづらくなり、経済的な負担も増える)ことに対策をとる必要があるでしょう。

来年も米国景気は良さそう。だが、不確実性もある。

今年これまでの米株市場は1999年以降でベスト・イヤーと言われ、まさに「バラ色」てす。

1998年以降のS&P500

2025年の米国景気も、インフレを伴いつつ、強く推移する可能性があるでしょう。

他方で、米国景気の力強さは、FRBによる利下げを遅らせる可能性も考えられます。

そうしたなか、金融市場は、多くの不確実性に囲まれています。

米国にかぎっても、財政拡張やインフレ懸念、銀行・ドルの資金繰り、オフィス不動産への貸出債権、大手企業の業績拡大の持続性、労働市場、消費者信用といった先行きが不透明な要素が挙げられます。

米国外で言えば、国際政治情勢(欧州・中東・極東)、中国経済、インド株式市場などの不確実性が挙げられます。

もちろん、これらは(株価を押し下げるような)リスク要因としてだけでなく、中央銀行や政府による「救済」を呼び込んだり、収束や好転に向かう可能性も十分に考えられることを認識しておく必要があるでしょう。

特に、現在の金融市場は、「株価を大きく調整させるような不都合な事象は中央銀行によるマネー・プリントで呑み込まれ、何事もなかったかのように済まされる」官製市場です(→その帰結は、インフレでしょう)。

資産と時間の分散は継続も、今後は銘柄選択がカギ。

いずれにせよ、この先は多くの不確実性に伴う曲折がありそうで、資産や時間の分散は引き続き必須です。また、業績や物色の転換点をしっかりと見極める必要があり、銘柄選択がとても大事にみえます。

ここ数年、S&P 500指数に代表されるような米国の大型株式市場をけん引してきたのは、大型テクノロジー銘柄です。

米国景気は良いとしても、バリュエーションが高まっていることと、金利の高止まりが予見されることと、そして、巨大企業も永遠には(いつも非常に高い)市場予想を上回り続けることができないことを、常に頭の片隅に入れておく必要があるでしょう。

今後、これらの銘柄の業績や設備投資の成長が止まったとみなされたり、わずかでも業績やガイダンス(=業績の見通し)を下回るようなことがあれば、米国の大型株式市場は、上昇が鈍ったり、調整圧力にさらされたりする恐れがあります。

実際、一部のテクノロジー企業では、監査法人が辞任する事態に陥っており、「A.I.(人工知能)相場」には「ほころび」が見え始めています。

これまでは「テクノロジー企業は全部買い」「大型成長株式は全部買い」といったスタンスでも投資の成果を得られたでしょう。

しかし、今後は(それがいつとは誰にもわからないものの)、一部の大型テクノロジー銘柄が鈍い動きになって、それがその他の大型テクノロジー銘柄にも波及し、大型株式市場全体が上昇しにくくなる可能性も考えられます。

この場合、あるいは、そうした状況に備えるためにも、①成長する銘柄をしっかりと選別したり、②中小型株式市場にも投資先を広げたり、③大型株式以外の資産にも分散投資を行ったりすることが望まれます。

インフレや生活の負担増に備えるためにも資産運用をつづけましょう。

参考:ロバート・ケネディ・ジュニア氏の独立宣言

(2023年)10月9日月曜日、私は、アメリカ合衆国大統領選挙の無所属候補であることを宣言しました。

そればかりでなく、私は、(米国政治に)うんざりしているすべての人々、そして希望を抱いているすべての人々と声を合わせるように、われわれの国全体のための新たな独立宣言を作成しました。 

この日、私は政府を乗っ取って利益を搾取してきた企業からの独立を宣言しました。

私はウォール街、大手テクノロジー企業、大手製薬企業、大手農業企業、軍需産業、そして現在では議会議員の数の20倍にも上るそのロビイストたちからの独立を宣言しました。 

私は、隣人を憎み、友人を恐れるよう私たちに永遠に促す金銭欲の強いメディアからの独立を宣言しました。 

私は、私たちの希望を裏切り、分裂を拡大させる冷笑的なエリートたちからの独立を宣言しました。 

そして最後に、私は二大政党と、それらを支配する腐敗した利害関係者、そして政府職員を企業の年季奉公人に変えた、憎しみと憤怒、腐敗と嘘の不正なシステム全体からの独立を宣言しました。もし、彼らを抑制しなければ、彼らは私たちの空気、水、食料、労働、そして子供たちを商品化し、アメリカンドリームを絶望と塵に変えてしまうでしょう。

私がこれらの腐敗した権力からの独立を宣言したのは、これらの権力が、1776年に制定された独立宣言で唱えられた生命、自由、幸福の追求という奪うことのできない権利と相容れないためです。

営利企業が私たちを守るはずの公的機関を掌握しているとき、私たちはどうやって命を守ることができるでしょうか。監視国家が権力を維持するために真実を隠し、反対意見を抑圧しようとしているとき、私たちはどうやって自由を享受できるでしょうか。そして、国民の家族が借金と飢えと、決して生活費を稼げない仕事に囚われているとき、私たちはどうやって幸福を追求できるでしょうか。

そこで私は今日、私たちから、ほどほどの生活、未来への信念、そして互いへの敬意を奪う腐敗の暴政からの独立を宣言しました。そのために私は(中略)、すべての政党からの独立を宣言しなければなりませんでした。

(ロバート・ケネディ・ジュニア氏のFOX Newsへの寄稿より一部を引用、2023年10月9日)


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著者名

フィデリティ・インスティテュート マクロストラテジスト 重見 吉徳

20208月、フィデリティ投信入社。農林中央金庫や野村アセットマネジメントにて外国債券の運用に従事。アール・ビー・エス証券にて外国債券ストラテジストを務めた後、2013年に J.P.モルガン・アセット・マネジメントに入社。個人投資家や金融機関、機関投資家向けに経済や金融市場の情報提供を担う。昭和の歌が好き(演歌・洋楽を含む)。


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