【QUICK Market Eyes 中山桂一】東京証券取引所は企業に要請した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を着実に浸透させるべく、専門部隊が地方を行脚している。2024年1月に設置した岩永守幸社長の直轄組織である「上場会社サポートグループ」だ。地方の上場企業などに寄り添いながら資本コストへの対応を促す。道のりの長いテーマの取り組みを探った。
■東証、地方行脚で「資本コスト要請」浸透へ、寄り添いながらのサポート
「グループの活動は探り探りで始まったのですが、だいぶ視界ははっきりしてきました」――上場会社サポートグループの二出川聡課長は振り返る。発足時点でグループは担当部長と二出川氏のわずか2人。岩永社長とも意見交換をしながら各地方での講演会の準備を進めた。地方行脚を進めていくと、「上場企業の経営層に『資本コストや株価を意識した経営』の要請について取引所としての思いや意図は伝えきれていなかったと痛感した」という。
同グループでは主に2つの施策を進めている。ひとつは東証の岩永社長自らが説明する経営者向けの講演プログラムだ。2月に始めてすでに20の都道府県で開催した。地方の証券会社などと組み、岩永社長自ら東証の資本コスト要請の背景や趣旨などを説明する。もうひとつの施策は企業の実務担当者向けのサポートだ。個別訪問は57社を超え、多数の意見交換もした。企業のIR担当向けのイベントなど内容も多岐にわたる。
※出所:東京証券取引所 東証上場会社サポートグループの施策、講演会開催済み件数などは8月30日時点
同グループの取り組みにより企業が資本コストの要請に対応した事例もある。スタンダード市場に上場し、家電などを製造するツインバード(6897)だ。渡邉桂三最高財務責任者(CFO)は「2月開催の講演会をきっかけに上場会社として(資本コスト)要請に応える必要があると認識し取り組みを加速した」と説明する。24年2月期の決算発表と同時に資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた方針を公表した。渡邉CFOは「まずは取り組みを初めた初年度となるが、次年度以降は優先順位をつけるなどをして複数年かけて改善していく」と意気込む。
ツインバードの開示情報「今後の事業展開について」より
上場会社サポートグループによる講演会などの取り組みは足元でペースが加速している。「当初は開催に協力してもらえる証券会社が少なかったが、内容が口コミで広がっている」(二出川氏)という。講演会は1~9月までは計8件だったが、10月から25年3月までは計20件程度あるという。
東証は資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について8月時点で現状をとりまとめ、「改革は始まったばかり」としている。二出川氏は企業への訪問を通じて実務担当者の意識が着実に変わってきていると実感するという。そのうえで「企業による要請の対応の開示から取り組みが始まり、ブラッシュアップを通じて企業価値を高めてもらうというのがゴールであり道のりは非常に長い」と話す。地道な取り組みから実り始めた変革の芽がさらに育っていくか注目したい。