2017年終盤の外国為替市場で、南アフリカの通貨ランドが急上昇している。対米ドルは日本時間26日午前の時点で1ドル=12ランド台半ばと11月に付けた今年の安値である14ランド台から大きく持ち直し、3月に付けた年初来高値の12ランド台前半に迫った。南ア政権に改革の兆しが見えたことを好感し、代表的な高金利通貨として見直す動きが広がっている。
ランドは対円では1ランド=9円台と2015年10月以来、約2年2カ月ぶりの高値を付けた。ランドの対円取引は日本で外為証拠金(FX)取引を手掛ける個人投資家「ミセスワタナベ」の独壇場といっていい。トルコリラやメキシコペソに流れていた投資家の一角がランドに戻ってきたと考えられている。
ランド買い加速のきっかけは、18日実施の与党・アフリカ民族会議(ANC)の党首選で、ラマポーザ副大統領が次期議長に選出されたことだ。ズマ大統領の汚職疑惑から経済改革が頓挫するなか、産業界出身で改革にも前向きとされるラマポーザ氏の台頭でズマ旧体制からの脱却に期待が高まった。
ミセスワタナベのように低金利のもとで運用難に悩む投資家は高金利商品に飢えている。多少の悪材料は気にしない傾向がある。南アと同様に政情不安が強いトルコのリラへの資金流入がなかなか衰えないのはそのためだ。
それでも南アの政治・経済はまだ楽観できない。与党内での権力争いは激しく、ラマポーザ氏がすぐに発言力を強められる可能性は低い。ズマ氏の任期が満了する19年に向けて次期政権を巡る曲折はまだまだありそうだ。「期待先行のランド買いには限界がある」(第一生命経済研究所の西浜徹・主席エコノミスト)との指摘が出ている。
実体経済を反映したとはいえないランド高は、南アの主要輸出品である白金(プラチナ)やパラジウム関連産業に打撃を及ぼしかねない。プラチナ生産に占める南アのシェアは6割を超えるとされる。「ランド高による輸出価格の上昇はロシアに対する競争力低下に直結する」(フジトミの斎藤和彦チーフアナリスト)。ロシアがランド高に乗じて生産を伸ばすとのシナリオも描ける。一度失った輸出のシェアを取り戻すのは容易ではない。
南アはすでに、経済政策の失敗による政府債務の増加で財務基盤が悪化している。格付け会社からの評価は厳しい。大手格付け会社のS&Pグローバルやフィッチ・レーティングスは南ア国債の格付けを投機的階級に引き下げ、ムーディーズ・インベスターズ・サービスは南アを格下げ方向で見直している。18年にランドが上昇するにしても一筋縄ではいきそうにない。
【日経QUICKニュース(NQN) 尾崎也弥】
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