QUICKではアジア特Q便と題し、アジア各国・地域のアナリストや記者の現地の声をニュース形式で配信しています。今回は台湾の現地記者、李臥龍(リー・ウォーロン)氏がAI半導体の最前線をレポートします。
時代はGPUからASICへ
人工知能(AI)が急速に隆盛し、グラフィック処理ユニット(GPU)が主な演算チップに採用されたことで、画像処理半導体の2大メーカーであるエヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)の株価が急騰した。もっとも、アプリケーションが一段と多様化するなか、特定用途向け半導体集積回路(ASIC)に切り換えるシステムメーカーも少なくない。画像処理半導体は今年にもASICにその地位を奪われることになると予測するアナリストは多い。
AIは過去数年間の半導体におけるメインストリームだと言えるだろう。エヌビディアやAMDの株価が数倍に高騰したことからも、高速演算チップを用いた膨大なデータや画像を処理は今後の流れであることが充分に分かる。
多くのシステムメーカーが音声・画像認識や自動運転、医療などに深層学習(ディープラーニング)を備えたAI半導体を導入している。エヌビディアは最も早い時期からこうしたメーカーと提携しており、当然のことながらAI市場の隆盛の最大受益者となった。
しかし、画像処理半導体の高速演算アルゴリズムは、すでにシステムのニーズを満たすことができなくなっている。
TSMC、ビットコイン関連で大型受注
最新の調査によると、最近の市場で注目を集めているビットコインなど仮想通貨ではマイニング(採掘)の難易度が絶えず高まり、GPUに替わりASICが用いられるようになった。
最新情報によれば、ビットコインのブームを巻き起こした中国のマイニング最大手ビットメインは今年、半導体受託生産会社(ファウンドリー)世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)にウエハー10万枚を一気に発注した。TSMCの回路線幅12ナノメートル(ナノは10億分の1)製造プロセスを用いてASIC半導体を生産し、次世代マイニング機器のコアチップにするという。関連の発注に関しては今年から出荷を開始し、毎月1万個を納める見通しだ。
この大型受注により、TSMCの株価に対する悪材料は打ち消された。スマートフォンの受注が予想を下回り、売上高が当初の想定から1割近く落ち込むとされていたが、減収幅は5%未満に縮まるとみられている。外国人投資家のTSMCに対する評価も変化した。外国人投資家は今年1月2日以降、累計でTSMC株を5万株買い越しており、TSMCの株価を226台湾ドルから7%高の242台湾ドルにまで押し上げた。
期待されるザイリンクスのFPGA
専門の海外投資機関も今後ASICがGPUに取って代わりAIの新たなスターになると有望視している。なかでも特に将来性を期待されているのが、製造後に回路構成の設定が可能な半導体FPGAの最大手である米ザイリンクスだ。FPGAの消費電力がGPUを下回る一方、処理速度が比較的速いというのがその主な要因。FPGAチップを用いてゲノム配列解析や音声認識の精度向上に必要なディープラーニングを行っているメーカーもすでにあるという。
AI発展の分け前にあずかろうとASIC開発を目指す半導体企業もますます増えている。米グーグルのAIチップの研究開発に協力したブロードコム、キャビウム、マーベル、マイクロセミ、台湾の聯発科技(メディアテック)と中国インターネット通販最大手アリババの連合などが例として挙げられる。AIアプリケーション向け半導体の商機をめぐって争う競合が増えることで、エヌビディアとAMDの好況も間違いなく分散されることになるだろう。
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