財務省は12日、学校法人「森友学園」への国有地売却の決裁文書に関する調査結果を国会に報告した。麻生太郎副総理兼財務・金融相をはじめ財務省幹部はこれまで文書の「書き換え」を否定してきたため、野党の反発は必至だ。国内の政治情勢が混乱し、財務相の進退などを巡って安倍晋三政権の求心力が低下した場合、金融・資本市場にはどんな影響が及ぶのか。市場関係者に聞いた。
※QUICK端末でのニュース配信は12日12:16
みずほ証券の上野泰也・チーフマーケットエコノミスト
次の最大の焦点は麻生太郎財務相の進退だ。麻生氏が財務相を辞任した場合、市場ではアベノミクス体制存続への懸念が高まり、海外勢を中心に円債売り・日本株売りが進みかねない。
もし自民党内で安倍1強体制への不満などから「麻生降ろし」の動きが出て、麻生氏を辞任に追い込む形になれば事態は深刻だ。細田派と麻生派が首相を支える協調体制も崩れてしまう恐れがある。
仮に麻生氏が辞任せずに今国会を乗り越えたとしても、政権の支持率低下は避けられないだろう。支持率の結果によっては、安倍政権の求心力は大幅に下がるはずだ。前回、森友問題をきっかけに政権の支持率が低下した2017年9月とは異なり、朝鮮半島情勢が大幅に改善しているため、有事対応を期待した支持率上昇も望めない。
安倍首相の3選が難しくなると、「アベノミクス」と日銀の大規模な金融緩和政策は修正を余儀なくされるとの思惑が海外を中心に広がるだろう。外国為替市場ではリスク回避や円金利上昇を背景に円高圧力がかかりそうだ。
JPモルガン・チェース銀行の佐々木融市場調査本部長
日本国内でニュースに触れていると、今回の騒動はこれまでより少し状況が違うと感じる。一方、海外ではまだ、そこまで深刻にとらえていないようだ。昨年と同様、今回も政権を揺るがすところまでは行かないと見ているのだろう。
海外での織り込みが進んでいないということは、万が一、安倍政権を揺さぶるニュースが飛び込んできたときの反応は大きくなる。外為市場では円買いにつながるだろう。これまで円安を演出してきたアベノミクスが終わるとの連想が働くためだ。
ただ円買いが入ったとしても一時的だとみている。仮に首相が変わっても、それでいきなり日本の景気が落ち込むわけではない。欧米などの景気回復も続いており、投資家のリスク選好姿勢は保たれる可能性が高い。「低金利通貨」の円の上昇余地はおのずと限られるはずだ。
野村証券の吉本元・シニアエコノミスト
森友問題を巡る混乱が今後、日本株の売りにつながっていくかどうかは安倍政権の支持率次第だ。読売新聞が9~11日に実施した世論調査では低下していたが、安倍首相の進退問題に発展するほどとはいえない。この先、支持率が低下し、9月に控える自民党総裁選で安倍首相の3選が難しくなるとの雰囲気が広がると、マーケット全体の懸念要因となりそうだ。
仮に安倍首相が交代するとしても、自公政権の枠組みは変わらない。経済政策は大きくは変わらない可能性が高い。ただ、海外投資家はアベノミクスを安倍首相でなければできない政策とみなす傾向がある。首相交代となれば、「(これまでの日本株高を演出してきた)アベノミクスが終わる」との連想から日本株売りにつながるだろう。
これまで政治的に日銀の出口戦略を封印してきた面もあるため、日銀の出口論議が高まるとの観測が出るかもしれない。
【日経QUICKニュース(NQN)矢内純一、荒木望】
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