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税金は「社会の会費」ってホント? 貧しい人を助ける効果は…(木村貴の経済の法則!)

記事公開日 2024/9/27 11:30 最終更新日 2024/9/27 11:30 財務省 減税 木村貴 貧困 物価高 木村貴の経済の法則!

【QUICK解説委員長 木村貴】以前のコラムで紹介したように、日本の国民負担率(国民全体の所得に占める税金と社会保険料の負担の割合)は、将来世代の負担分を加えたベースで約50%に達し、数字の上では江戸時代の年貢率の「五公五民」と変わらない。市民からは自民党総裁選を機に、事実上の税である社会保険料を含めた減税を求める声が強まっている。

ところが減税の要求に対しては、「無責任」「税は必要」などと反発する向きがある。「福祉など行政サービスの整った現代と江戸時代を単純に比較するのは間違い」といった批判もある。減税を求めるのは無責任なのだろうか。あらためて考えてみよう。

市場取引との決定的な違い

「税は必要」と強調する意見は、日本に限らない。シンガポールの経済マンガブログ「ウォーク・サラリーマン」(意識高い系サラリーマン)は、税が重要な根拠をいくつか挙げている。

その一つは「公的サービスは税金で賄われるから」というものだ。同ブログによれば、すぐにはわからないかもしれないが、私たちは多くの公的サービスを享受していて、それがどうやって可能になっているのか、深く考えようとしない。国防、道路、医療、公園、公営住宅、公教育といった公的サービスを賄うお金は、どこから来ているのだろうか。「そう、税金だ」

ブログは続ける。「簡単にいえば、税金とは国や地域社会に住むための(義務的な)会費のようなものだ」

「税金は会費」というこのたとえは、よく目にする。たとえば、日本の財務省は「もっと知りたい税のこと」というパンフレットを作成し、内容をホームページで公開しているが、その中で「「税」は社会の会費」とうたっている。

財務省の説明は「ウォーク・サラリーマン」よりやや詳しいけれども、趣旨は同じだ。「みんなが互いに支え合い、共によりよい社会を作っていくため、公的サービスの費用を広く公平に分かち合うことが必要です。まさに、税は「社会の会費」であると言えます」と強調している。

「税金は社会の会費」というたとえは、一見もっともらしい。「ちゃんと払わないといけない」と思わせる効果がある。けれども、このたとえには一つ大きな問題がある。民間サービスの会費と違い、税は強制という点だ。

たとえば、民間の動画配信サービスの場合、アマゾンプライムビデオ、ネットフリックス、U-NEXT(ユーネクスト)など複数のサービスから自由に選ぶことができるし、退会したサービスには当然、会費を払わなくていい。

ところが公的サービスの場合、退会することができない。「社会保険料が高いし、病院にほとんど行かないので、公的医療サービスを退会します」といっても認められない。公立学校の教育の質が悪いので子供を私立校に通わせても、公立校の分の税金は払い続けなければならない。

「会費」と呼ぶからには、退会し、払わない自由がなければならないだろう。しかし公的サービスはそれが許されない。米シンクタンク経済教育財団(FEE)の編集長パトリック・キャロル氏は「税金は任意ではない。実のところ、一種の恐喝である」と指摘する。自発的な市場取引とは決定的な違いだ。

一部には「税金が嫌なら国を去ればいい。だから厳密には強制ではない」と言い放つ向きもあるが、乱暴すぎる。県や市なら移住も現実的かもしれないが、国外移住の各種コストは普通の個人にとって非常に高い。「退会」を高いコストで事実上不可能にすること自体、税が「会費」という気軽な呼び名にふさわしくないことを物語る。

経済学者ヨーゼフ・シュンペーターは「税は会費」という考えを批判し、「会員料やサービスの購入(例えば医療サービス)との類推で課税を解釈する理論があるが、そのような理論を編み出す社会科学の分野がいかに科学的な思考習慣から遠いところにあるかを裏づけるものにすぎない」(『資本主義、社会主義、民主主義』)と一蹴している。

税は生産活動を阻害

「税は必要」とされるもう一つの主な根拠は、貧しい人を助けるためというものだ。

「ウォーク・サラリーマン」はこう説明する。「多くの社会は、裕福な人だけではなく、すべての人にまともな人生を送るチャンスを与えようとする。すべての人がともに成長できるように、政府は様々な種類の税金を通じてお金を集め、そのお金を使ってすべての人に平等なチャンスへの道を提供する。これは助成金、補助金、その他の政府支援を通じて行われる」

「すべての人にチャンスを与える」とは、文句のつけようがない立派な目的に見える。だが問題は、その目的を課税という手段によって達成できるかどうかだ。

経済学者ルートヴィヒ・フォン・ミーゼスは「税金は必要である」としたうえで、ただし「没収的課税」と呼ばれる、所得・資産に対する累進課税は、富裕層だけでなく、社会のあらゆる人に悪影響を及ぼすと説く。なぜだろうか。

富裕層が徴税される所得・資産の大部分は、資本の蓄積に用いられていたはずである。政府が税収を自身の支出に充てれば、それは本来なされるはずだった資本蓄積の減少を意味する。

新たな資本蓄積のスピードが落ちると、科学技術の進歩が阻害され、労働者1人当たりの投下資本が減少し、労働生産力の上昇が抑制され、それに伴う実質賃金の上昇が抑制される。没収的課税は「金持ちのみに損害を与えると世間の人々は信じているが、それが誤りであることは、明白である」(『ヒューマン・アクション』)とミーゼスは指摘する。

またミーゼスによれば、課税は産業の新陳代謝を妨げる。新規参入した起業家が利益の多くを奪われるため、資本を蓄積できず、事業も拡大できないからだ。一方で老舗企業は、新規参入組との競争から守られる。たしかに老舗企業も課税で資本の蓄積を妨げられるが、新規参入者の資本蓄積を妨げることで、それ以上のメリットを享受できる。

前出のキャロル氏によれば、政府による様々な規制も税と同じく、経済に悪影響を及ぼしている。具体的には、各種の許認可、ゾーニング(区域設定)、知的財産法などだ。実質的な税といっていい。規模の大きい老舗企業は対応する余裕があるけれども、小規模な新興企業には不利だ。規制の多い日本の場合、普通の税金に劣らず、こちらの悪影響が深刻かもしれない。

いずれにせよ、規制という実質的な税を含め、重い税は産業に悪影響を及ぼす。「すべての人にチャンスを与える」つもりが、チャンスそのものが減ってしまう。シュンペーターは課税について「ほぼ必然的に生産プロセスを阻害する性格を持つ」(同)と指摘する。

減税は社会を豊かにする

政府がお金を刷ってばら撒いても、貧しい人は豊かにならない。物価高になり、お金の価値が下がるだけだ。どんなに福祉制度を充実させても、栄養のある食品や快適な衣服、安全な住まいは天から降ってはこない。豊かな暮らしを実現するには、品質の良い製品・サービスを数多く生産する必要がある。

しかし税金が重すぎたり規制が多すぎたりすると、その重要な生産活動を妨げる。その結果、貧困層を含む多くの人々の暮らしは楽にならないどころか、苦しくなる。実際、日本を含む多くの国で政府自身が税や規制で貧しさを作り出し、悪化させている。そのくせ、政府は貧しい人を救う正義の味方のような顔をする。

減税を求めるのは、決して無責任ではない。もちろん個人の暮らしが楽になるというメリットはあるが、同時に経済の重荷を軽くし、産業の生産力を高め、社会全体を豊かにする効果がある。半面、「金持ち優遇」「企業優遇」批判に迎合して富裕層や法人に対する課税を強化すれば、その負担は生産力の低下を通じ、社会全体が負うことになる。

好きに使える政府予算の額が減り、権力の縮小を強いられる政治家・官僚や、彼らと癒着しておいしい思いをしてきた企業・団体以外に、減税で得をしない人はいないはずだ。

著者名

木村貴(QUICK解説委員長)

日本経済新聞社で記者として主に証券・金融市場を取材した。日経QUICKニュース(NQN)、スイスのチューリヒ支局長、日経会社情報編集長、スタートアップイベント事務局などを経て、QUICK入社。2024年1月から現職。業務のかたわら、投資のプロに注目される「オーストリア学派経済学」を学ぶ。著書に「反資本主義が日本を滅ぼす」「教養としての近代経済史」ほか。


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