29日の東京外国為替市場で円相場は急反落し、1ドル=106円半ばを中心に推移している。3月末に向けての需給が円売り・ドル買いに偏り、コンピューターを用いた商品投資顧問(CTA)などのアルゴリズム投資家は週初までに積みあげた円の買い持ち高整理を迫られた。将来の為替レートを予測する通貨オプション市場で予想変動率(IV)が安定し、アルゴ勢のもくろみが外れてしまった面もある。
IVの安定は為替差損の回避(ヘッジ)目的のオプション需要がさほど増えていない状況を示す。日本では大手の輸出企業や機関投資家が主にオプションを手掛けるため、IV上昇は日本国内における円高シナリオの広がりを映すケースが多い。アルゴ勢もその点を意識し、CTAなどの投機筋はたいていIVの上昇もしくは高止まりを円買い戦略の条件としてきた。
円相場のIV1カ月物は3月に入り、8%台前半を中心とするレンジで推移している。日銀の黒田東彦総裁が出口検討の具体的な時期に触れた2日や、米中貿易摩擦への懸念から円が約1年4カ月ぶりに1ドル=104円台まで上昇した23日に8%台後半~9%台に上がったものの、米株価の急落に揺れた2月上旬の10%台後半には及ばない。国内輸出企業は円・コール(買う権利)の買いや先物の円買い予約を進めてきたが、市場では「今のところ焦りは感じられない」との声が目立つ。
日銀は4月2日、3月調査の企業短期経済観測調査(短観)概要を発表する(全容は3日発表)。前回の2017年12月調査時点で、事業計画の前提となる円の想定為替レートは大企業・製造業が2017年度通年で1ドル=110円18銭、17年度下期に限れば109円66銭だったが「18年度は全体的に数円程度円高・ドル安方向に修正される」(明治安田生命保険の小玉祐一チーフエコノミスト)との予想が支配的だ。
1ドル=110円台から4~5円程度上方修正されれば29日の実勢水準にほぼ並ぶ。17年度の終盤のように計画との乖離(かいり)を気にして円買いを急ぐ必要性は薄れる。円・コールオプションの購入や先物の円買い増加によるIV高も起こりにくくなる。
CTAが円買い材料としてプログラミングしてきた米中の貿易摩擦や日米の政治リスクについては今のところ「続報」が乏しい。28~29日は朝鮮半島情勢の緊張緩和を材料とする円売りにも押された。アルゴの円買い戦略は仕切り直しの様相が濃くなっている。
【日経QUICKニュース(NQN ) 今 晶】
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