24日の東京株式市場で、人工知能(AI)開発のHEROZ(ヒーローズ、4382)の取引が上場3日目にしてようやく成立した。初値は4万9000円と公開価格の10.9倍で、野村証券によると1995年以降のIPOで最大だった。初値を付けた後は過熱感から利益確定売りに押されて売り気配で終えたものの、時価総額は約1400億円と東証マザーズで6位にまで駆け上がった。
「人工知能(AI)関連のIPOをめぐる『成功体験』が投資家の人気を呼んだ」。いちよし証券の宇田川克己・投資情報部課長はHEROZの初値高騰をこう分析する。
早大将棋部の元主将で、将棋のアマチュア強豪として名をはせた林隆弘最高経営責任者(CEO)らが創業したHEROZ。開発したAIを搭載した将棋ソフトで名人に勝利した実績がある。マザーズ上場の記者会見で林氏は「将棋向けのAIを応用して建設やゲームなど、様々な業界にAIを提供している。AIが導入されていない業界もまだ多く、大きな可能性を感じている」と語った。
AI関連のIPOとして投資家の記憶に残っているのが昨年9月にマザーズに上場したパークシャ(3993)だ。初値は5480円で公開価格の2.3倍とまずまずの船出。だが上場後のわずか4カ月で株価は1万6730円と3倍強に膨らんだ。「HEROZも上場後に一段高になるのでは」との期待が、初値段階からの人気につながった。「今年5月以降にいったんIPOが途切れることも、投資家の資金を呼び込んだ」(いちよしの宇田川氏)
株式の需給もHEROZの株高を後押しした。需要動向に応じて実施するオーバーアロットメントを除けば、同社がIPOに際して実施したのは公募増資(自己株式の処分を含む)のみで発行済み株式数の5%強だ。今年上場した企業はIPO時に公募と売り出しの合計で発行済みの平均3割弱の株式を流通市場に供給しており、HEROZはひときわ需給の逼迫感が強い。
もっとも、パークシャのように今後も数倍の株価となるかどうかは不透明だ。成長期待が高いとはいえ、HEROZが開示している18年4月期の単独税引き利益は前期比2.3倍の2億1900万円。予想PER(株価収益率)を計算すると639倍に及び、パークシャ(450倍)よりも割高だ。
初値が3000万円と公開価格の約9倍に急騰し、初値時の上昇率で長年にわたって首位を維持してきたMTI(9438、1999年10月上場)はIT(情報技術)バブルの波に乗って、その後9750万円まで急伸。だが株式分割や公募増資を経て、今は653円だ。株式分割を考慮しても、00年1月に付けた実質的な上場来高値(2万250円)からは遠い。
HEROZの場合は、昨今のAIブームを背景に、さながら初手から王手飛車取りのような大盛り上がりを演じた。資本市場ではまだ「歩兵」だが、この後、見事「と金」に成り上がって活躍するには確かな実績が求められる。
【日経QUICKニュース(NQN ) 神能淳志】
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