経営破綻をネタにした自虐ツイート、アナリスト罵倒、一転謝罪と、何かと市場を騒がせてきた男が今度は突然の「退場宣言」。いったいどこまで本気なのか、その真意はどこにあるのかーー。
7日の米国市場でテスラが3営業日ぶりに急反発。前日比10.98%高の379.57ドルで終え、一時は387.46ドルまで上昇して上場来高値(2017年9月18日、389.61ドル)に迫る展開となった。
イーロン・マスク最高経営責任者(CEO)がこの日にツイッターで、「420ドルでテスラの非公開化を検討している。資金調達は確保した」とつぶやいたことで買いが殺到。テスラ株は米東部時間14時8分ごろから1時間ほど売買停止となり、取引再開後に一段と上げ幅を広げた。
テスラに関しては、この日に英フィナンシャル・タイムズ紙電子版が「サウジアラビアのパブリック・インベストメント・ファンドが今年に入り、テスラ株を3~5%(20億ドル規模)取得した」と報じていたことから、政府系ファンド(SWF)やプライベート・エクイティ(P.E.)などが出資してレバレッジド・バイアウト(LBO)を支援するのでは無いかとの思惑も出やすい状況だった。
著名金融ブログのゼロヘッジは7日、マスク氏がツイッターの後に従業員に宛てた電子メールの内容を伝えていた。それによれば、マスク氏は非公開化されても従業員が持つ株式を売却したり、ストックオプションを行使することは可能と安心感を与えつつ、マスク氏がCEOを務める宇宙ベンチャー企業のスペースXが非公開企業であることを踏まえ、長期的な成長のためには非公開化した方が良い旨を説明していた。
ただ、米経済専門チャンネルのCNBCによれば1株=420ドルならテスラの時価総額は710億ドル(約7兆9000億円)となる。仮に本当にLBOを行うなら、資金は莫大なものとなる。テスラはその後、ブログでマスク氏のツイートを正式に認める一方、「最終決定されたものではない」との見解を示していた。
ある欧州系証券のアナリストは同日付のレポートで懐疑的な見方を示した。1点目は株式を買い取るための資金調達。「テスラの無担保社債は足元で利回りが6.7%前後で推移している。仮にハイイールド債市場で400億ドル(約4.4兆円)が調達できたとしても、年間の支払利息は27億ドルにも達する」と試算し「市場は今回の案を受け入れないのではないか」とした。ただでさえ電気自動車の生産で現金を「消化」しているテスラにとっては重荷となることは必至だ。英フィナンシャル・タイムスは同日、サウジアラビアのソブリン・ウェルス・ファンドが20億ドル相当の株式を取得したと伝えているが「株式を買い取る資金としてはまったく足りない」という。
2点目として前出のアナリストは「マスクCEOは投資家を引き続き株主として存続させる旨を伝えているが、現行の制度で可能かどうか不透明だ」とも指摘した。
テスラは3月21日に開いた株主総会で、マスク氏の報酬体系を見直したばかり。今後10年は完全な成果連動型とし、時価総額が1000億ドルを超えるまで法定の最低報酬を除きマスク氏は無報酬になるとしていたが、非公開化した場合、時価総額の正確な評価ができるのか疑問が残りそうだ。
そもそもテスラ株は空売りが多い銘柄で、7月末時点で発行済み株式数の27.40%の空売り残高がある。マスク氏が空売り投資家の踏み上げを図ろうとしてツイートしたのではないかとの見方も根強い。実施すれば史上最大規模のLBOとなるが、成否はいかに。(片平正ニ、岩切清司)
★マスク氏のツイッター
https://twitter.com/elonmusk/status/1026872652290379776
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