ESG(環境・社会・企業統治)投資への関心が債券市場でも高まっている。2018年は環境に配慮した事業に資金使途を限定する「グリーンボンド(環境債)」の発行が相次ぎ、国内発行体による発行額は17年の4倍強となった。社会的問題に必要な資金を調達する「ソーシャルボンド(社会貢献債)」や、社会的責任投資(SRI)分野に調達資金を振り向ける「サステナビリティボンド」も含め、債券市場でもESG投資の動きが着実に広がってきた。
みずほ証券によると、国内発行体による18年のグリーンボンドの発行額は4355億円と17年(1060億円)に比べ大きく増えた。案件ベースでは29件となり、前年(5件)の6倍に膨らんだ。ESG債全体の発行額も6500億円弱と、3000億円程度だった前年から倍増した。
国際資本市場協会(ICMA)と日本証券業協会は12月上旬、グリーンボンドやソーシャルボンドに関するセミナーを開催した。国内を含むアジアの発行体や銀行、証券会社、機関投資家など、前年を40%も上回る550人の市場関係者が押し寄せ、登壇者の話に熱心に耳を傾けた。ESG投資への関心が高い海外勢だけでなく、国内の金融市場関係者も今後の動向を把握しようと情報収集に余念がない。
「国内市場では量よりも質的な変化が印象的な1年だった」。みずほ証券の香月康伸シニアプライマリーアナリストはこう振り返る。円建て債券の発行が外貨建て債券の発行を初めて上回り、「国内投資家が投資しやすい環境になってきた」(香月氏)。発行体は海運や空運、ノンバンク、機械など業種の多様化が進んだ。一方、個人投資家向けグリーンボンドが発行されるなど投資家層の拡大もみられた。
グリーンボンドなどの発行には、第三者機関による認証や発行後の定期的な情報公開などが必要で、通常の社債などと比べて追加コストがかかる。ESG投資への関心の高まりから通常の社債などに比べて人気化しやすい側面もあるが、「リスク量は普通社債と変わらない」、「投資家側も確認や審査すべき項目が増えるのはコスト増だ」といった声も根強く残る。理念には共感できても債券としての優位性にはつながっていない。
それでも国内で初の個人向けグリーンボンドを発行した商船三井(9104)は「自社の環境への取り組みを広くアピールするうえで有益だった」(財務部)という。複数の企業や団体が投資を表明することも珍しくなく、国内でも発行体・投資家がともに環境対策や社会貢献を重視している姿勢を示す「ツール」として活用する動きが広がりつつある。
英非営利団体のクライメートボンド・イニシアチブによると、世界のグリーンボンド発行額は18年に2100億ドルに達するという。17年(1620億ドル)に比べ3割ほど増える見込みだ。国内でグリーンボンドをはじめとしたESG関連の債券は一定の存在感を示し始めているとはいえ、国内の公募債市場に占める割合はわずかだ。19年の国内債券市場では、一段の発行増を期待する声が高まっている。
【日経QUICKニュース(NQN ) 片岡奈美】
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