国内主要企業の2018年度第3四半期決算がほぼ出そろった。今回の決算では、保有株で多額の評価損を計上したトヨタなど「バランスシート(貸借対照表)」に関連する損失を計上するケースが相次いだ。国内企業は海外展開や新事業開発などの過程で資産を膨らませてきた。ただ今後、資本・為替市場が波乱に見舞われたり景気が急速に悪化したりすると、こうした資産の価値が大きく毀損する可能性が出てくる。今年4月末頃から発表される本決算では、こうした損失を計上する企業が増えるおそれもあり、一部の市場関係者は決算の「死角」として警戒している。
持ち合い株の評価損など保有資産の価値低下に伴って損益計算書に計上される損失は本業との関係が薄いとして、景気が右肩上がりの時は軽視されがちだ。しかし、景気が成熟期を迎えると企業が発する重要なメッセージとなるケースが少なくない。企業には「景気悪化に備え、財務に余裕があるうちに『負の遺産』を処理しておこう」という動機が生まれるからだ。
持ち合い株の下落で評価損
主力株で構成する「TOPIXコア30」採用銘柄のうち、金融を除く3月期企業22社について18年4~12月期の本業以外での損益を示す「営業外損益」を集計した。主な項目は持ち分法投資損益や証券評価損益、金融収益、同費用など。国内基準を採用する会社の場合、特別利益や特別損失も含めた。その結果、18年4~12月期は合計で1214億円の黒字と、前年同期の5669億円の黒字から黒字額が大幅に減少した。
一部の企業は、持ち分法投資損益を本業と関連があるとして営業損益に組み入れている。採用する会計基準の違いなどで費用計上の仕方は異なるが、全体のおおまかな傾向をつかむには参考になる。
トヨタは政策保有株、いわゆる持ち合い株の価格下落に伴う損失を「未実現持分証券評価損益」として計3558億円を計上。営業外損益に当たる「その他の収益・費用合計」は2121億円の赤字(前年同期は2329億円の黒字)に転じた。
事業凍結や過去のM&Aで減損
日立は英国の原発事業の凍結に伴う減損損失が第3四半期で2772億円発生した。貸借対照表上の有形固定資産や無形資産などの額を減らすとともに、損益計算書でも「その他費用」が前年同期の526億円から3606億円に膨らんだ。こうした一部のいわゆる老舗企業の巨額損失が全体に響いた形だが、損益が悪化した企業数も22社中14社と過半を超える。大なり小なり、本業以外の収益性が低下している様子が読み取れる。
TOPIXコア30以外では、野村ホールディングスが08年に経営破綻した米証券大手リーマン・ブラザーズの一部事業や電子取引のインスティネットなど、過去のM&A(合併・買収)に絡む減損損失を800億円あまり計上し、市場に驚きを呼んだ。
景気減速で「不良債権」に
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の芳賀沼千里チーフストラテジストは「バランスシートの問題は、中長期的にボディーブローのように効いてくる」と指摘する。
超低金利状態が世界的に長期化する過程で、日本企業はM&Aなどを通じて海外を中心に積極的に投資し、多額の資産を積み増してきた。そうした案件が、景気減速を機に一転して「不良債権化」する可能性があるわけだ。
中国の景気減速が深刻化するなか、投資家の第一の関心は企業の売上高だが、その本業にも陰りが見え始めた。岡三証券のまとめによれば、13日時点で東証1部上場企業の18年10~12月期の営業利益は前年同期比3.5%減と8四半期ぶりに減益に転じた。純利益は24%減少した。企業は今後、本業以外での損失処理を急ぐ可能性がある。
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