「証券営業・私の戦略」、今回は三菱UFJモルガン・スタンレー証券の鈴木理大さん。グループの銀行から紹介を受けた企業経営者を主に担当する入社6年目の営業マンだ。若手ならではの視点で顧客の要望をくみ取り、地方支店時代の2016年には英国の欧州連合(EU)離脱決定などによる大荒れ相場にも顧客の信頼を得て社長賞を受賞した。将来は「企業の経営アドバイスまでできる営業担当に」と高い目標を掲げる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券
鈴木理大氏
すずき・まさひろ 2014年慶大卒、三菱UFJモルガン・スタンレー証券入社、和歌山支店配属。17年10月本店フィナンシャル・アドバイザリー部へ。入社以来、個人や未上場法人の営業を担当し、現職はフィナンシャル・アドバイザリー第一部の課長代理として、三菱UFJ銀行から紹介される顧客を担当。入社3年目で社長賞を2回受賞。27歳。横浜市出身
他社商品も含め顧客の資産全体に目配り
――2016年は6月に英国のEU離脱(ブレグジット)が決まり、11月には米大統領選でトランプ氏の勝利を受けて相場は大荒れでした。この年に入社3年目で社長賞を受賞するなど成績を残しました。
「ブレグジットのときは株価も急落し相場の見方も総悲観となりました。株式を購入してもらえないなかで、お客様とのコミュニケーションを密にとり潜在ニーズを引き出すよう心掛けました。株などが値下がりしてもリスク回避できるよう、金価格の上昇を見越して金鉱株なども提案しましたし、債券などリスクの少ない商品を勧めるようにしました」
――相場環境が悪いときに低リスク商品を勧めるのは、他の営業担当者も同じだと思いますが、鈴木さんはどういったことを工夫したのでしょうか。
「自社から購入いただいた商品だけでなく、他社商品も含めお客様の資産全体を把握し、経営者の方に対しては本業のことまで考えたうえで提案ができるように心掛けていました。たとえばいま人手不足や物流コストの上昇で利益が出にくくなっているという悩みを抱えている経営者の方が多くなっています。人手不足はシステムの自動化で補いたいというニーズが高いため関連銘柄の商品を紹介し、物流費の上昇は燃料費高が一因なので、原油価格に連動する上場投資信託(ETF)を紹介するなど固定費を補えるような資産運用の方法を提案しました」
「お客様の話を聞いていると必ず本業の悩みが出てきます。そうした悩みに対応できるようにそれぞれの業界について分析したり、同業の上場会社の情報を提供したりするようにしていました。努力したことは相手に伝わり、事業の方向性についてご相談いただけるようになったこともあります。究極的には経営アドバイスまでできる営業担当者になるのが理想です。商品を売りつけるだけの営業では信頼を得られません」
――若いということで、話を聞いてもらえないこともあるのでは。
「むしろ若い人がどういったことを考えているか、どういう視点でものを見ているかなどを知りたいと考えている経営者の方は多く、質問を受けることもよくあります。新卒採用に関してもいまの20代がどういう福利厚生を加えれば満足度が高まるか悩んでいるお客様もおられ、私は近い年代なので意見を求められることもあります。またビットコインなど若い人が手掛けることの多い投資商品について聞かれることもあり、そうした話題にも答えられるようにしています」
「銀行や資産運用会社などを持つ金融グループの一員として、金融業界の動向についての情報も提供するようにしています。どういった流れで銀行融資がされているのかなど、業界に身を置いていないとわからないこともありますし、お客様の関心の高いところでもあります。銀行の研修を受け知識を深めるなど、金融業界全体の総合的な視点を持った人材になりたいと考えています」
「5G」「自社株買い」……気になるテーマは徹底的に調べ尽くす
――現在は新設の部署で銀行から紹介された顧客を担当しています。
「グループの銀行とお付き合いのあるお客様になりますが、投資はこれまであまり手掛けたことがなく、漠然とした不安を持っている方が多いです。そういうときは株や債券、投信など主要な金融商品の全体感を説明したうえで、それぞれのニーズに応じた商品を提案し、リターンを具体的に伝えます。たとえば5年債に投資したら年2回これだけの金利収入があるなど、期中のキャッシュフローを含めた説明をするとわかってもらいやすいです」
――最近の顧客ニーズに変化はありますか。
「低金利が続いているので、リスクを少し取ってみようという方がここ数年増えています。特に法人のお客様は本業で人件費や物流費など固定費が増え利益が圧迫されてきていることも多く、投資により資産を有効活用してカバーしようという考えが出てきています。最近では外債や日経平均株価連動債(日経リンク債)、他社株転換社債(EB債)などの需要が高まってきているように感じます」
――情報収集や指数などを見る際に気をつけている点は。
「気になったことは自分が納得できるまでデータを深掘りして調べ尽くすようにしています。たとえば現在、投資分野として注目されている次世代通信規格『5G』などの通信インフラ投資は国家事業の一環だと思っており、総務省の公開情報やディスカッションペーパーも読み今後の成長性まで考えるようにしています」
「ソフトバンクグループが2月初めに自社株買いを発表して日経平均を押し上げたように、最近は個別要因が指数を動かしていることも多いと感じています。寄与度の高い銘柄の動きは特に確認するようにし一歩踏み込んで分析した上でお客様に伝えるようにしています。日経平均と東証株価指数(TOPIX)の動きの違いも注視しています。日経平均だけが上がっているときは先物を使った海外投資家の短期的な資金が入っている可能性が高いと考えられます。金や銅の指数や原油価格などコモディティーの動きは中国などの景況感の先行指数としてや、リスク度合いを測る上でも注視しています」
「証券営業担当者も銀行など金融業界全体の知見を持つべきだ」と高い理想を掲げる鈴木さんだが、もともとは金融業界には「全く興味がなかった」という。卒論のテーマは「アジア経済史」。歴史研究で培った文献を読み込む能力がいまの情報収集に生きているようだ。家庭では1歳の娘の父であり、同じグループの銀行に勤める妻とはお互いに仕事の話をするのが息抜きになるという。〔日経QUICKニュース(NQN) 神宮佳江〕
(随時掲載)