インターネット上の仮想通貨ビットコインの変動が再び大きくなってきた。ドル建て価格は4月初めの1ビットコイン=4000ドル台から今週に入って8300ドル台とわずか1カ月で倍になり、ここ数日は数百ドル単位での上下動が目立つ。仮想通貨市場の厚みや取引の自由度を示す「流動性」は法定通貨に遠く及ばない。一部の投機資金が手掛けるまとまった規模の売り買いに振り回されやすくなっている。
ビットコインの急伸局面では欧米ヘッジファンドなどの投機筋による空売り持ち高の解消がささやかれた。一連の動きは主要な投機戦略である「リスク・パリティ」に似ている。
リスク・パリティでは株や債券などの保有資産の持ち高をボラティリティー(変動率)の高さに応じて変えていく。ビットコインの空売りは厳密にいえば資産ではないが、ボラティリティーの強弱が持ち高形成や整理を促す点では同じだ。2019年に入ってコインの採掘者(マイナー)などからの「投げ売り」が収まって相場の反発色が増すにつれ、空売りファンド勢は17~18年初のような上昇方向への変動率の高まりを意識せざるを得なくなったようだ。
そんな中でトランプ米大統領が対中関税を強化する姿勢を示し、米国株の変動性指数(VIX)先物の売りに傾いていたファンドなどを動揺させた。小回りの利くヘッジファンドには仮想通貨を組み込んでいるところが少なくない。欧米主導の株安でリスクをとる余裕がなくなり、コインの買い戻しを促しやすかった面もある。
ドルを基軸とする法定通貨の取引は100万ドル(約1億1000万円)単位が基本だ。市場が厚い円やユーロの対ドル取引では、コンピューター経由の高頻度取引「HFT」が1000分の1~100万分の1秒単位で100万ドル規模の売買を繰り返す。一方、発行量が限られ流動性は上がりにくい仮想通貨は、ブームだった18年初にかけてでさえ機械取引の参入は厳しかった。
HFT全盛の先進国通貨の取引では一日で少なくとも数兆ドル(数百兆円)のお金が行き来するとみられている。これに対し、情報サイトのコインマーケットキャップなどによると仮想通貨の日々の売買高は1000億ドル台まで膨張してきたが、算出に用いられる交換業者のデータには「水増し」疑惑がつきまとう。売買増が投機の持ち高整理主導なら市場参加者の裾野は広がっていないことにもなる。
足元では「安全資産としてのビットコイン」「分散投資の対象としての仮想通貨」といった声も出ている。今後、法定通貨と同様に先物やスワップ市場の整備が進み、機関投資家や企業の利便性が高まる可能性が意識されている。だが巨額の資金をコンスタントに受け入れ続けられるほどの流動性はすぐには望めない。価格変動リスクも大きい。その点は心しておくべきだろう。
【日経QUICKニュース(NQN ) 編集委員 今 晶】