QUICKコメントチーム=弓ちあき
逆風ばかりが目につく夏枯れ相場の中で、吉野家ホールディングス(9861)の勢いが目立つ。株価は今年に入って2割強上昇し、上場来高値(2490円、2000年11月)も視野に入る。株価収益率(PER)は1400倍台と指標面では「並」でない割高ぶりだが、ブル(牛)な株価チャートの裏には円高や貿易摩擦、消費増税といった日本株のマイナス材料を逆手にとれる好環境がある。
「超特盛」で客単価上昇
株高に弾みをつけたのが既存店の好調だ。吉野家の既存店売上高は5カ月連続で増加。特に客単価の伸びが大きい。
吉野家は3月に肉の量だけ大盛の2倍とした「超特盛」(税込み780円)を投入。これが3~5月期決算の好調の立役者となった。並盛(同380円)に比べ割高感はあるが、炭水化物を抑えながら満足感が得られるとして、大盛(同550円)を注文するような若い男性を中心に好評を博したようだ。
20年2月期の連結業績の上振れ期待も根強い。3~5月期の営業利益は10億4400万円と、通期予想(10億円)を超過している。
円高と米中摩擦は追い風に
一段と進んできた円高・ドル安や、米中の貿易摩擦の激化による米農産物のだぶつきも追い風だ。主要食材である米国産牛肉の冷凍バラ肉「ショートプレート」などの仕入れ価格の下落につながっている。長期で冷凍貯蔵した肉を使うため実際に価格下落が業績に寄与するには時間が必要とみられるが、業績寄与が長く続く可能性が高いとも言えそうだ。牛肉価格は18年度の価格も17年度比で2.7%安となっているほか、3~5月期の原価率は34.9%と前年同期(35.8%)比で0.9ポイント低下している。
株主構成が個人投資家中心であることもポイント。19年2月時点で見ると個人の持ち株比率は73%、次いで金融機関が17%で、外国人は4%にとどまる。株主優待でも人気の銘柄で、8月末にも株主優待の権利確定があることから需給面でも売り圧力が強まる可能性は低く、足元の相場環境ではメリットとなりそうだ。
持ち帰りなら軽減税率
消費増税の悪影響への抵抗力も期待できる。500円を切る価格による競争力は高まる公算が大きいほか、持ち帰りにすれば8%の軽減税率が適用される。牛丼は持ち帰りのハードルも低い。地方在住である筆者からすれば、平日休日問わずドライブスルーに群れなす状況をみていると持ち帰り需要が浸透していることを痛感する。
ただし、消費増税を巡って苦い記憶もある。14年4月に8%に引き上げられた際は、客数が同10月まで前年割れ。その後、12月に300円から380円に牛丼を値上げして前年を割り込み、再び既存店の客数が前年を上回ったのは16年2月だった。軽減税率があるため前回よりも影響は限られそうだが、増税が客足を鈍らせるリスクがあり既存店の動向には一段と目配りしておきたい。
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