資産形成を目指す個人投資家の間で、指数連動型のインデックス投資が広まりつつある。運用各社も様々なインデックスファンドを展開し、信託報酬の引き下げや品ぞろえの拡充など独自の取り組みでしのぎを削っている。
「インデックスファンドNAVI」では、運用各社のインデックスファンドシリーズについて、それぞれの特徴や強みを解説する。今回取り上げるのは野村アセットマネジメント。新発想のブランド戦略で投資家層の拡大を狙う「Funds-i」シリーズや、積み立て向けに特化した低コストの「野村つみたて」シリーズを展開する。
■25本の「Funds-i」シリーズ、為替ヘッジ型が豊富
「Funds-i」は2010年11月に投資初心者向けのファンドとしてスタートした。当初の品ぞろえは10本。いまでは熟練者向けの「Funds-i フォーカス」シリーズと、リスク水準の異なるバランス型ファンドを集めた「My Funds-i」シリーズを合わせて25本のラインアップがある。
このうち基本的な指数に連動する「Funds-i」は、現在16本。国内外の株式や債券、不動産投信(REIT)の主要な指数に連動するファンドが並ぶ。
2016年に新設した「Funds-i フォーカス」シリーズは現在4本あり、増配を続ける企業で構成する米国の「配当貴族指数」や米国のハイ・イールド(低格付け)債券の指数に連動する。2017年には5つのタイプからバランス型ファンドを選べる「My Funds-i」を拡充した。
これら「Funds-i」シリーズは、為替ヘッジをしながら海外資産に投資できる「為替ヘッジ型」の取り扱いが多いことが特徴の1つだ。為替リスクを取りたくない投資家のニーズに合わせた。シリーズ全体の純資産総額(残高)は7月末時点で993億円まで膨らんでいる(表1)。
「どのファンドを選べばいいかわからない」といった悩みを抱える投資家は、資産運用を助言するロボットアドバイザー(ロボアド)の「Funds Robo(ファンズ・ロボ)」が無料で利用できる。7つの質問に答えれば、「Funds-i」シリーズの中からそれぞれに適したファンドの組み合わせやバランス型ファンドが表示される仕組みだ。
■新発想のPRを展開、20~30代女性をメインターゲットに
シリーズ名の「i」は、「I(私)」や「index」、「愛・愛着」、「internet(インターネット)」といった意味。投資を「自分事」にしてほしい、日常生活に根付かせたい――。そんな思いが込められている。
「Funds-i」の設定から7年目の2017年1月、野村アセットマネジメントはブランド戦略の強化に乗り出した。大々的なプロモーションで手を組んだのは、これまで金融分野を手掛けたことのないブランディング会社だ。
プロモーションは投資初心者、とりわけ20~30代の女性をメインターゲットに絞った。パンフレットやWEBサイトだけでなく、ロゴも一新。駅構内や電車の中に広告を設置したり、複数の女性誌で特集を組んだりと、同社がこれまで試したことのない新しい発想のPRを次々と展開した。
さらに最近は投資をもっと身近に感じてもらうために、自社のスマートフォン(スマホ)向けアプリを通じたキャンペーンを実施。クイズとアンケートに答えるとアイスクリームがもらえるこのキャンペーンは、SNS(交流サイト)で話題となった。参加者による「#(ハッシュタグ)」付きの投稿の効果もあって、若い女性を中心に反響が広がった。
投資信託営業企画部の安藤祐介シニア・マネージャーは、「若い人の感性に響くもの、見て共感できるものを具体的な形にしていった」と話す。その波及効果は女性にとどまらず、配偶者や友人など男性にも広まっていくことを想定している。
■積み立てに特化した「野村つみたて」
積み立て方式の少額投資非課税制度(つみたてNISA)導入を2018年1月に控えるタイミングで、17年9~10月には積み立てに特化した「野村つみたて」シリーズを立ち上げた。コストの安い3ファンドを投入。投資初心者向けをより意識して、商品の名前からパンフレットの内容まで一貫してわかりやすさを追求した。
このうち「野村つみたて外国株投信」(0131317A)は、17年11月に投票された「投信ブロガーが選ぶ Fund of the Year 2017」で4位入賞を果たした。設定から間もないにも関わらず、1本で先進国(日本除く)と新興国の株式に投資できる利便性や低コストが支持を集めた。滑り出しは上々で、設定後から資金流入が続いている(表2)。
■巨大なマザーファンド、高い運用効率
同社のインデックスファンドは、それぞれが投資するマザーファンドが大きいことも特色の1つだ。マザーファンドの資産規模が大きいと、運用管理を効率化して諸費用を安く抑える効果が期待できる。
例えば「野村つみたて外国株投信」の残高は7月末時点で30億円弱。一方、マザーファンドの「外国株式MSCI-KOKUSAIマザーファンド」と「新興国株式マザーファンド」の合計残高は、7月末時点で約5500億円と大きい。投資家が実際に購入するファンド(ベビーファンド)1つ1つの残高が小さくても、そのファンドが巨大なマザーファンドに投資していれば効率的に運用できる。
さらに同社のインデックス運用は1980年代から実績がある。長い歴史とその間に培ってきたノウハウの蓄積が信頼の高さにつながっているようだ。
■低コスト競争に参加せず、投資家層の拡大に注力
インデックスファンドは運用各社による信託報酬の引き下げが続いているが、野村アセットマネジメントはこの「低コスト競争」に参加する以外の方法を選んだ。主力の「Funds-i」は設定当初から信託報酬を据え置き、今後も引き下げる予定はないという。
激しい低コスト競争にどう対抗するか。同社が出した答えが「ブランド戦略」の強化だ。安藤氏は「コストの削り合いで業界が疲弊するのは意味がない。若い人が気負わず投資に踏み出せるような雰囲気をつくり、投資家層の拡大につなげたい」と語る。
「Funds-i」のキャッチフレーズは「もっと、お金の話をしよう」。投資の潜在的なイメージが「怖い」「難しい」から「おしゃれでかっこいい」などポジティブな方向へと変わり、若い人が気軽にお金の話に花を咲かせる日がくるのかどうか。野村アセットマネジメントの戦略が実を結ぶかが注目される。
<関連サイト>
(QUICK資産運用研究所 小松めぐみ)