レーザーで高速・高精度で距離を測る「LiDAR(ライダー)」と呼ばれる技術に注目が集まっている。LiDARは本格的な自動運転の実現に必須の技術。自動車メーカーやIT企業の開発が遅れるなか、光学系メーカーの技術が光る。旧来事業の不振に悩むハイテク企業が進めてきたセンサーの研究開発が業績を大きく回復させることになるかもしれない。
センサー技術が事業リストラを救う~リコーの大逆転
AIPE認定 知的財産アナリスト=宮内和行、証券アナリスト=三浦毅司
企業評価への視点
自動運転のレベルが向上するなか、車載の増加が見込まれるLiDAR。特許出願件数でデンソー(6902)に次ぐリコー(7752)はLiDAR技術をてこに業績が回復する可能性がある。
第1章 LiDAR―自動運転開発のフロンティア
1. 鍵を握る認知システム
運転支援にとどまるレベル2と自動運転のカテゴリーに達するレベル3との大きな違いは、周囲の認知をドライバーが行うか、システムが行うか、という点だ。今後本格的な自動運転技術が確立されていく中で、その鍵を握るのは認知システム、中でもセンサー技術である。
1990年代、自動車メーカーが考えていた運転の高度化は、衝突防止や駐車サポートなど運転支援だった。周囲の認知はあくまでドライバーが行うという認識であり、自律センサーの開発はさほど急ぐものではなかった。ところが、2000年代に入ってGoogleやUberなど非自動車メーカーが自動運転に参入して、本格的な自動運転開発競争が始まったことから、急速に自律センサーの開発が進められた。もっともIT企業にとってもデバイスの開発は実績が少なく、結果として自律センサーは自動運転関連技術の開発で最後に盛り上がりを見せている分野だ。
■自動運転のレベルと周囲の認知状況
出所:SAE International J3016を基に正林国際特許商標事務所作成
2. センサーの違い
外部を認識するセンサーには大きく分けて4つある。このうち、超音波で周囲を認識する超音波センサーや、可視光線を認識するカメラセンサーは、ほぼ技術が確立されており、運転支援レベルでは既に広く使われている。
一方、自動運転のためには、遠方にある対象物を認識する、ドライバーの目に代わる検知機能が必要だ。このために、ミリ波レーダーやLiDARが自動車に搭載される。
LiDARの技術開発が遅れたのは、①価格、②小型軽量化、③消費電力の面で、他のセンサーに比べて著しく不利だったことが原因である。光をパルス状に照射して反射光を認識するという走査機能は、光学系メーカーの得意とする分野であったため、自動車会社が取り組みにくかった面もあっただろう。
とりわけ大きかったのは価格の制約である。LiDARは高価であるため、量産化による価格低下が見込めないうちはどうしても開発に及び腰になる。ところが、LiDAR搭載の前提となるレベル3以上の自動運転は、世界中の主要国で認められておらず、現時点では発売の目処が立っていない。こうした状況で、各社とも条約・法律改正のスケジュールをにらみながら開発を続けてきたというのが実情だろう。
もっとも、既にドイツなどが批准するウィーン条約では自動運転が認められ、米国や日本が批准するジュネーブ条約でも改正の準備が再び進められている。技術開発の進展とともに世界各国で自動運転が認められれば、価格低下を見込んで開発はさらに進むと見られる。
■使用する電波が異なる
正林国際特許商標事務所作成
3. LiDAR市場は年率50%成長も
自律センサーの中で、遅れてきた分、LiDARの予想成長率は年率50%ともっとも高い。また単価が高い分、市場規模も大型化し、矢野経済研究所では2030年にはメーカー出荷金額ベースで約5000億円に達すると予想している。今後、自動運転レベルの向上と共に、LiDAR市場はさらに拡大するだろう。
■自動運転用センサーの世界市場規模予測
出所:矢野経済研究所「ADAS/自動運転用センサ世界市場に関する調査(2018年)」
第2章 自律センサー特許申請の動き
1. 特許出願は2度目のピーク
自律センサーの特許出願動向を見ると、1990年代後半に車線、対物感知センサーの特許出願がピークを迎え、2013年からは対人、あるいは路上の3次元計測装置に焦点が移った。今後特許出願はさらに増加する見込みである。車線、対物感知センサーに比べ、現在の技術開発対象は市場規模も大きく、特許による知財優位が確立できれば高い収益性も期待できるだろう。
LiDARに限った部品に係る特許出願を見ると、リコーはデンソーに次いで2位と健闘している。
■自律センサーの特許出願件数推移
■企業別特許出願件数(LiDAR)
出所:いずれもパテントマップEXZにより作成
※特許庁係属:特許出願(申請)がされたもので、まだ権利化(登録)の可能性が残っているもの
第3章 リコー、LiDARが業績回復のドライバーに
リコーは事業立て直しの途上だ。2018年3月期は下期だけで税引き前損益が約1,400億円の赤字となったが、主因はオフィス向けコピー機の不振によるオフィスプリンティング部門の損失だ。オフィスで紙のコピー、印刷需要が激減するなかでコピー機の価格が下落しているのに加え、収益源だったトナーや紙など消耗品、リースも競争激化により採算が厳しくなった結果といえる。
■リコーは2019年3月期に黒字化へ
出所:リコー
リコーも手をこまねいていた訳ではない。民生用カメラ開発そのものは後発で、先行するソニー(6758)、日立製作所(6501)などビデオカメラを生産していたメーカーの後塵を拝しているが、リコーは小型化に力を入れ、世界最小の車載用ステレオカメラを開発、量産化した。
平行して、リコーは2014年からLiDARに関する特許出願を本格化させた。世界の競合企業が技術開発にしのぎを削る中、リコーが2014年以降出願した特許の多くは現時点で特許庁係属となっている。これらが登録できれば、リコーの業績はLiDAR技術をてこに大きく改善する可能性がある。
■ リコーのLiDAR関連特許出願件数推移
出所:パテントマップEXZにより作成
※特許庁係属:特許出願(申請)がされたもので、まだ権利化(登録)の可能性が残っているもの
(2018年11月20日)
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