2018年のPCT(特許協力条約)に基づく国際出願件数でみた日本企業のトップ3は三菱電機(6503)、パナソニック(6752)、ソニー(6758)だ。だが、3社の置かれた状況や戦略はそれぞれ異なる。
トップを走る三菱電機はファーウェイに次ぐ世界的にも2位で、出願数を安定的に伸ばしているものの、出願領域が分散し先端分野への研究開発投資はやや物足りない水準だ。かつて世界トップクラスだった2位のパナソニックは、TV分野の出願が減少してきたが、電池の出願が増加して全体の件数は反転している。今後も車載電池などの伸びが期待でき、業績向上につながる期待が持てる。3位のソニーはTVの出願が多く、それがここにきて失速した。次の種が見えず、技術優位を活かした戦略の曲がり角に来ている。
ニッポン電機、世界とどこまで戦えるか
正林国際特許商標事務所
証券アナリスト=三浦 毅司
■3社のPCT出願件数の推移
出所:WIPO Statistics Database
第1章 三菱電機~出願領域が分散
長期的な開発、基礎研究は強いが
三菱電機の国際出願の中身を見ると、特定の分野に偏らず、万遍無く出願を増やしている。国際特許分類(IPC)のコード別にみると、2008年~18年の累積で最も割合の高いのがH02(電力の発電、変換、配電)の16%、次いでH04(電気通信技術)の11%、H01(基本的電気素子)の10%という順だ。幅広い事業領域について、長期的な研究開発や基礎研究を行った成果といえる。
業績はおおむね堅調で、毎年の研究開発費も安定している。その中で国際出願を増やす動きは明確で、三菱電機の国際特許出願重視の姿勢が見て取れる。
一方、研究開発投資額は、事業領域別で見るとそれほど大きくはない。特に、多額の投資が必要な情報通信システムや電子デバイスの投資は世界的な競合相手と戦うには少ないとも思える。
■三菱電機の分野別国際特許出願(17-18年は未公開出願あり、正林国際特許商標事務所)
■業績とPCT出願件数(会社資料、WIPO Statistics Database)
■2017年度の研究開発費(10億円、会社資料)
第2章 パナソニック~テレビ減少で電池に活路
業績・研究開発費の伸びが出願に連動
パナソニック(パナソニック、パナソニックIPマネジメント合算)の国際出願の中身を見ると、H01(基本的電気素子)、H04(電気通信技術)の2分野が突出している。それぞれ、2008年~18年の累積の出願件数の20%ずつを占めている。それ以外は出願分野が分散しており、多くても7%程度にとどまる。
H01の中で多いのが、「H01L21」に分類される半導体装置等、そしてH04で多いのが、「H04N 5」あるいは「H04N 7」といったテレビジョンに係る特許だ。こうした事業の地盤沈下によって出願が減少したと思われる。最近の反転のドライバーとなっているのが、「H01M2」あるいは「H01M 4」に分類される電池だ。知財戦略の面からみれば、パナソニックは家電メーカーから車載電池等の供給メーカーに大きく舵をとったと言える。
■パナソニックの分野別国際特許出願(17-18年は未公開出願あり、正林国際特許商標事務所)
パナソニックの国際特許出願のトレンドは、おおむね業績に一致する。車載向け電池の需要が伸びて業績が伸長、研究開発費が増加すれば、電池に係る特許出願にさらに拍車がかかると思われる。特許の伸びが業績につながる期待が持てる。
■業績とPCT出願件数(会社資料、WIPO Statistics Database)
第3章 ソニー~テレビの次の「種」が課題
映画・音楽・金融主体に変貌、戦略は曲がり角
ソニーの国際出願では、H04(電気通信技術)が40%と突出している。その中で、パナソニック同様「H04N 5」あるいは「H04N 7」といったテレビジョンに係る特許、「H04N21」のコンテンツ配信に係る特許が多い。そして、これらの出願が減少した結果、昨今の国際出願減少につながっている。特許出願件数でみる限り、ソニーは次の柱が見えてきていない。
■分野別国際特許出願(17-18年は未公開出願あり、正林国際特許商標事務所)
ソニーの業績は17年度以降急回復をみせ、18年度には営業利益で約9000億円に達した。しかし、研究開発費は大きく伸びず、PCT出願も18年には減少に転じている。ソニーのセグメントにおいて映画、音楽、金融分野が伸長していることも理由の一つだが、技術優位を武器にした従来の知財戦略は曲がり角に来ている。
■業績とPCT出願件数(会社資料、WIPO Statistics Database)
★参考:IPCコードの体系
(2019年5月13日)
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