吉野彰・旭化成名誉フェローのノーベル化学賞に沸くリチウムイオン電池。基本的な研究開発は1970年代に始まったが、今でも用途拡大に向けて技術開発が続いており、特許出願も増加している。
この分野は巨額の投資が必要である一方、採算確保が難しく、プレーヤーは大手企業に限られる。各社とも全固体電池の開発を進めている。
全固体電池を開発するに当たり、車載用途向けなど大型電池の開発が先行している。大型電池は、価格が高く、容量も大きいことから、開発を進めやすいという事情がある。一方、スマホ向けなど小型電池の需要はすでに成熟化、各社とも資金の捻出に苦労しており、技術開発は進んでいない。
地道な研究開発で賞賛、巨額投資の採算カギ
正林国際特許商標事務所
証券アナリスト=三浦毅司
第1章 KKスコアの上位は日本企業が優勢
リチウムイオン電池に係る特許をKKスコアで重みづけを行い、上位の特許を保有しているランキングを作成した。上位にランクインしたのは、韓国・中国のリチウムイオン電池製造大手及び車載など大型の電池を利用・製造する大手メーカーであった。顔ぶれは安定するとみられるが、採算確保が引き続き課題となる。
■リチウムイオン電池に係るKKスコア上位特許保有上位10社
広がる用途、高付加価値化の難度は増す
リチウムイオン電池の研究は1970年代、本格的な商品化は1990年に始まったとされる。昨今でも用途の拡大がドライバーとなり、技術開発が続いている。こうした動向を受け、特許出願件数は引き続き増加傾向にある。上位特許についてKKスコアを使って重みづけを行うと、特許が全体的に小粒化しているのが分かる。これは生産者にとって付加価値をつけ、採算を確保するのが難しくなっていることを示している。
(Patent SQUAREにより正林国際特許商標事務所作成)
第2章 サムスン・トヨタ・パナの3強対決
1.三星(サムスン)SDI……スマホ向けもEV向けも
三星SDIは、スマホなど向けの小型リチウムイオン電池と、自動車・太陽電池向けの大型リチウム電池の双方を主にサムスン電子に供給している。2017年から売上高が急増し、課題であった利益も急回復した。
リチウムイオン電池の6割を占める小型電池の売り上げはサムスン電子の新製品の販売時期に左右され周期的に増減する。一方、4割を占める大型電池は堅調に増加している。主にEV向け需要は欧州・中国向けに需要が拡大しており、今後も売り上げ増加が見込まれる。
リチウムイオン関連特許出願件数は2005~2006年ピークに横ばい。これはまだ小型電池の割合が高いことによると思われる。今後は、売り上げを慎重に予測しながら技術開発を行っていくものとみられる。
(業績は会社資料、特許件数はPatent SQUAREにより正林国際特許商標事務所作成)
2.トヨタ自動車……開発効率化へ、パナとタッグ
トヨタのリチウムイオン電池の主な用途はハイブリッド車の電池で、基本的に外部から購入している。ハイブリッド車の販売台数は、国内が踊り場を迎える一方、海外が増加し、全体では増加が続いている。
トヨタの現在の研究テーマは、低価格化や原材料の安定供給を実現する素材の開発、性能の管理・監視、充電時間を圧倒的に短縮する全個体電池の開発など多岐にわたるが、大型電池が主体である。
欧州を始めとして、今後ますます強まるであろう燃料車の廃止規制に対応すべく、EVの進出機会を伺っていると思われるが、特許出願件数も順調に増加している。研究開発の効率化と採算の確保を目指し、2020年末までにパナソニックとの合弁会社を設立すると発表した。
(業績は会社資料、特許件数はPatent SQUAREにより正林国際特許商標事務所作成)
3.パナソニック……車載向けが軸、再び増収基調に
車載機器を主力とするオートモーティブ&インダストリアルシステムズ部門の売上高は2016年から反転しているが、利益はまだ不安定である。技術開発の主体は大型電池であり、リチウムイオン電池に関する特許出願件数は順調に増加している。車載向けリチウムイオン電池に対するコミットメントは強く、今後も技術開発を進めていくと思われる。
(業績は会社資料、特許件数はPatent SQUAREにより正林国際特許商標事務所作成)
(2019年10月16日)
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