QUICKコメントチーム=根岸てるみ
サンケン電気(6707)がグループ初の統合報告書を10月末に公表するなど、統合報告書の発行が浸透しつつある。最近は働き方改革の影響もあるのか、「メンタルヘルスに伴う休職者数」という精神疾患で一定期間休む従業員の数を開示する企業がじわり増加。センシティブなデータを明らかにする企業の真意はどこにあるのか。
財務情報に非財務情報も合わせて記載した統合報告書は、統一ルールがないため、開示される項目が企業ごとで異なる。そんななか、メンタルヘルスで休職する従業員数を公表する企業が少しずつ増えている。その背景には職場でストレスを感じる従業員が年々増加していることがある。
メンタルヘルスに関するデータを先駆けて開示した企業の一つとして味の素(2802)が知られる。ベアリング(軸受け)大手のNTN(6472)は2018年3月期から開示を始めた。「厚生労働省が公表しているデータによると、従業員数に対するメンタルヘルス休職者数の比率は平均で0.8%。これに比べて当社は0.4%(単体ベース)と、優位性があると判断して開示を決めた」(NTN広報部)という。実際、公表している企業の多くは平均を下回っており、アピールポイントとしてデータを用いているようだ。
住友重機械工業(6302)やコメリ(8218)のように、メディアなど外部からのアンケート調査でメンタルヘルスに関して聞かれることが増えてきたため、時代の流れと捉えて開示に踏み切ったというケースもある。
うつ病などの精神疾患は年々増加している。特に若い世代が深刻なようで、三菱マテリアル(5711)は報告書の中で、「メンタルヘルス不調による新規休業者の約半数が入社5年目以下の若手社員だった」ことを明かし、その対応策として2016年度から入社3年目の全社員を対象に、臨床心理士による面接を実施していると報告した。不調者の発生を未然に防ぐための対策や、メンタルヘルス不調者が円滑に職場復帰できるような支援プログラムも確立しているという。
メンタルヘルス休職者が増加すると売上高利益率が低下するという分析もある。投資銘柄を選別するうえで、メンタルヘルスに対する企業の取り組みは新たな物差しの一つになるかもしれない。
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