日経QUICKニュース(NQN)=菊池亜矢
日米欧の債券市場で利回り曲線のいびつさが解消されつつある。米連邦準備理事会(FRB)が利下げ停止を示唆したのをきっかけに、各国・地域の追加的な金融緩和観測が後退しているのが背景だ。利回り曲線が、償還までの期間が長いほど利回りが高くなる順イールドになるという正常化が広がっている。
日米欧の短中期ゾーンでは5年債利回りのほうが2年債利回りより低くなる逆イールドが常態化していた。足元で逆イールドは修正されており、日本国債でみると2年債利回りはマイナス0.195%、5年債がマイナス0.180%と順イールドを描いている。米国やドイツ、フランスの国債でも5年債と2年債の逆イールドが解消している。
■日本ではようやく5年国債の利回り(赤)が2年国債(青)を上回った
景気後退の前兆とされる10年・2年の逆イールドと異なり、短中期での逆イールドは市場参加者が追加利下げに備える姿勢を示唆していたためだ。「利下げ観測が強まると、市場は利下げ局面が続くと織り込み始め、中期ゾーンが最も買われやすくなる」(国内銀行の債券担当者)。日本の5年債利回りは9月下旬に一時マイナス0.400%まで低下し、2年債を0.05%も下回った。
日銀は10月30~31日に開いた金融政策決定会合で、利下げの方向を明確に含む政策金利の新たなフォワードガイダンス(先行き指針)を示したが、マイナス金利の深掘りには踏み込まなかった。「実行するハードルは相当高い」(国内証券)との見方が多い。欧米でも利下げ観測が後退し、利回り曲線は世界的に上方にシフトしその過程で逆イールドの解消が広がった。
市場参加者によると、円の翌日物金利スワップ(OIS)のフォワード金利は6カ月先スタートの6カ月物で、一時マイナス0.2%を下回る水準まで低下したが、足元ではマイナス0.1%程度と日銀当座預金の一部に課されるマイナス0.1%近くまで上昇したという。市場が織り込む日銀のマイナス金利深掘りの確率がほぼゼロになったことを示している。
2年債利回りの低下は、国庫短期証券(TB)の利回り低下が影響している面もある。12月末や3月末といった期末が意識される時期には、担保としてTBの需要が高まり利回りが低下しやすくなる。年末が意識されてTB利回りが低下し始めているのが、より手前の2年債利回りに波及している季節要因もありそうだ。
欧州では金融政策から財政政策の必要性に焦点があたるなど、マイナス深掘り観測は大幅に後退している。雇用情勢の減速懸念が後退した米国でもFRBのクラリダ副議長が1日の講演で「金融政策は好ましい状況にある」と述べ、景気のリスクが高まらない限り利下げを停止する可能性を示唆した。欧米が利下げを急がない中で、日銀のマイナス金利深掘り観測は高まりそうもない。
米中の貿易協議が進捗するとの期待は根強く、金利低下につながる材料が乏しいのも確かだ。岡三証券の鈴木誠氏は「投資家も押し目買いに慎重にならざるを得ない」と指摘する。13日は金利上昇が一服したが、低下幅はそれほど大きくない。「利下げ観測が高まらない限り、再び逆イールドが生じる可能性は低い」(SMBC日興証券の奥村任氏)。世界的な追加緩和期待のはく落が、はからずも日銀のイールドカーブコントロール(YCC)を後押ししている。
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