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ヤフーを待つ2020年問題 今年失効する重要特許TOP5(IPリポート VOL.19)

日本製鉄や三菱ケミカルも~どう越える「特許の崖」

 

証券アナリスト 三浦毅司(日本知財総合研究所)

日本では、特許の存続期間は出願から20年と定められており、医薬品などの例外を除いて、2000年に出願された特許は今年2020年にその効力を失う。特許はその技術が詳細に記載されているため、ジェネリック医薬品と同様、特許の存続期間が切れると、第三者がその内容に基づき当該技術を活用できる。保有者におけるその影響を検証した。

■特許出願の減少=日本経済の停滞ではない

2000年当時に年間45万件程度あった特許出願件数はそれから減少を続け、現在は年30万件程度である。一方、鉱工業生産指数は2008~2009年の金融危機前後に増減はあるが、最近は持ち直して概ね2000年当時の水準を回復している。またGDPは2000年当時と比べておよそ2割増となっている。

特許出願件数そのものは減少しているが、実際に出願されている内容を見ると、①大企業の製造業の経営統合と特許出願の厳選化、②「モノ」の特許から「コト」の特許へのシフトによる件数の減少、③特許出願のすそ野が中小企業やスタートアップ企業にも広がったが、そうした企業は予算面の制約から特許出願を絞り込む傾向がある、の3つが原因とみられる。必ずしも悲観的になる必要はなさそうだ。

特許出願件数と鉱工業生産指数、名目GDP(2000=1)

出所:各種資料により日本知財総合研究所作成

特許価値評価ツールのKKスコアを用いて、2000年に出願された特許すべてについてその価値を評価した。Zホールディングスの特許は、検索エンジン「ヤフー」やネット通販など主力事業への影響が極めて大きい。

2000年に出願された特許の中でのKKスコア上位

出所:PatentSQUAREのデータを元に日本知財総合研究所作成

■個人情報の保護・利用のカギ握る技術

第1位 Zホールディングスの個人情報システム

ネットワーク上のユーザーの個人情報を保護しながら、一方で業者側での十分な個人情報収集を可能にするための技術。具体的には、個人がネットワーク上で行動する際に仮想人物を設定し、その仮想人物を認証させて各種の取引を行うシステムを構築している。

この特許は当初、セキュリティ技術のローレルインテリジェントシステムズ(東京・港)が出願したものをZホールディングス(ヤフー、当時)が取得したものである。

「ヤフー」の検索エンジンやネット通販のテコ入れを急ぎたいZホールディングスにとって特許失効はダメージが大きく、LINEとの経営統合でどこまでカバーできるかが注目される。

第2位 日本製鉄の高強度無方向性電磁鋼板

タービン発電機や電気自動車の主モータ、工作機械用サーボモータなど高速回転を必要とする回転機のロータ用として、耐疲労特性と磁気特性に優れた高強度無方向性電磁鋼板とその製造方法に関する技術である。回転機を高速回転させる際、回転するロータにかかる遠心力が強く、その対策が課題だった。材料の成分構成比を改良することで実現した。

当該分野は引き続き重要である。日本製鉄はコンスタントに出願を続けており、本件の失効が事業に大きな影響を与える可能性は低いと思われる。

第3位 三菱ケミカルの船艇塗料用防汚剤

船底塗料の防汚剤には、安価で船底塗料との混合性が良く、防汚効果も優れているなどの理由からトリブチルスズやトリフェニルスズなどの有機スズ化合物が多く使われてきた。しかし近年これらの有機スズ化合物の毒性が明らかになり、これに代わる防汚剤として銅の化合物である銅ピリチオンが脚光を浴びるようになった。この発明では、銅ピリチオンを塗料に適した形で製造することを可能にした。

この特許は当初キクチカラー(東京・文京)と吉富ファインケミカル(当時大阪市)が共同出願したが、吉富ファインケミカル分を三菱ケミカルが取得した。

この分野は引き続き重要である。三菱ケミカルは当該分野でコンスタントに出願しており、本件の失効が事業に大きな影響を与える可能性は低いと思われる。(2020年2月18日)

 

日本知財総合研究所 (三浦毅司 [email protected] 電話080-1335-9189)

(免責事項)本レポートは、レポート作成者が信頼できると判断した情報に基づき作成されていますが、レポート作成者及びその所属する組織等は、本レポートの記載内容が真実かつ正確であること、重要な事項の記載が欠けていないこと、将来予想が含まれる場合はそれが実現すること及び本レポートに記載された企業が発行する有価証券の価値を保証するものではありません。本レポートは、その使用目的を問わず、投資者の判断と責任において使用されるべきものであり、その使用結果について、レポート作成者及びその所属組織は何ら責任を負いません。また、本レポートはその作成時点における状況を前提としているものであって、その後の状況が変化することがあり、予告なく変更される場合があります。

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