QUICK Market Eyes=弓ちあき
安倍晋三首相は24日夜、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長と電話で協議し、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、今夏に開催予定だった東京五輪・パラリンピックを1年程度延期することで合意した。経済活動が鈍ることで需要が減れば製品の販売は減る。同様に自粛ムードの反動から消費活動が活発化する可能性はあるものの、企業収益の低迷が賃金を直撃することとなれば消費者の財布のひもが固くなるリスクも否めない。
■ストック型収益に着目
「モノ」の販売が落ち込むことは不可避となる中、影響を最小限に抑えるシナリオで改めて注目したいのがストック型の収益モデルだ。中でも技術やサービスの向上、保守などクラウド化の進展とともに定額課金サービスとの親和性の高いIT(情報技術)関連の企業にはすでに収益貢献の目立つ例も多い。
一例がスマレジ(4431、マザーズ)だ。13日に発表した2019年5月~20年1月期の単独決算は、営業利益が前年同期比2.4倍の7億円と通期計画を超過達成した。売上高の内訳をみると、19年11月~20年1月期の機器販売は軽減税率による駆け込みの反動から19年8~10月期に比べて59%減となる一方、クラウドの月額利用料は11%増となっており、売上高を下支えしている。解約率も低水準にとどまっているため、同ストック型収入は増加傾向だ(図1)。
新型コロナウイルスによる集客減などで短期的には設備投資意欲が低下して機器販売への悪影響が出るにしても、このストック型収入が一定の下支えになる可能性が高い。株価も一時昨年来安値に迫る場面があったものの、決算発表以降は切り返している。
情報セキュリティー関連のソフト販売やサービス運用などを手掛けるテクマトリックス(3762)もストック型収入の比率向上を目標に掲げ、アプリ関連の事業を中心に伸長。業務用ソフトを販売するシステム ディ(3804、ジャスダック)も19年11月~20年1月期決算で営業黒字化を達成した背景にはシステムのサポートやクラウドサービスの拡充などを通じてストック収入を伸ばす戦略が奏功していることがある。なお、19年10月期実績ではストック収入は前の期比27%増の15億円となった。
このほか商品情報のデータベースソフトを手掛けるeBASE(3835)も消費情報管理に特化してサービス利用料を定額で得ることで高収益を確保。営業利益率は20年3月期予想ベースで28%に達する見通しだ。これら企業の株価は足元の急落の影響を大なり小なり受けるにしても、昨年来安値はまだ上回る水準にある。PER(株価収益率)が高い例もあるが、システムディは10倍まで低下するなど割安感も出てきた印象だ。(図2)。
■アナリストの期待も強い
また、細かく探れば製造業にもストック型企業は隠れている。例えば足元で証券会社の投資判断引き上げが相次いだボイラーの三浦工業(6005)。およそ全社営業利益の5割がストック型のビジネスモデルであるメンテナンス事業が占めるとみられる。メンテナンス事業はネットを通じて24時間体制できめ細やかな対応を可能にしており、顧客満足度は高いもようだ。
需要の落ち込みが予想される中では売り切りだけでなく継続的な収益基盤を持つか否かが、業績や株価の差に大きく反映してくる可能性が高い。また需要動向に左右されにくい収益基盤を構築する企業の取り組みを後押しする動きにもつながりそうだ。