日経QUICKニュース(NQN)=藤田心
南アフリカ共和国の通貨ランドが売りに押されている。対ドル相場は4年ぶりの安値圏にあり、過去最安値の更新が視界に入る。新型コロナウイルスに対する懸念がランドの逆風を強めている。27日には米格付け会社ムーディーズ・インベスターズ・サービスが同国の格付けを見直す予定。格下げとなればランド安に拍車がかかる可能性があり、市場関係者は警戒を強めている。
■約4年ぶり安値圏
ランド相場は年初から下落基調にあった。足元の対ドル相場は1ドル=17.5ランド前後と、最安値である2016年1月(17.8ドル台後半)以来のランド安水準にある。対円相場も1ランド=6.3円台と最安値圏だ。
背景にあるのが新型コロナの世界的な感染拡大による金融・資本市場の混乱だ。投資家がリスク回避姿勢を強めたのに伴い、基軸通貨であるドルの需給が逼迫した。この過程で新興国通貨は大きく売られ、ランドも例外ではなかった。野村証券の春井真也氏は「3月のここまでの南ア債券の資金流出額は約30億ドルと月内ベースで過去最高水準にある」と指摘する。
新型コロナは南ア経済にも悪影響を及ぼしている。ラマポーザ大統領は23日、感染者増加への対応策として国民に26日深夜から3週間にわたり自宅待機をするよう指示した。市場では「感染拡大抑止へやむを得ない措置とはいえ、経済活動の縮小による経済成長率の急低下は避けられない」(国内証券のエコノミスト)との懸念が広がる。
■焦点は格付けに
こうした状況下で市場の関心は27日に予定されるムーディーズの格付け見直しに集まっている。ムーディーズは主要格付け会社で唯一、南アを「投資適格級」としている。2019年は「ジャンク級(投資不適格級)」への格下げこそ回避したものの、格付け見通しは「ネガティブ」に変更。S&Pグローバルとフィッチレーティングスの2社からはすでに「ジャンク級」に分類されている南アにとって瀬戸際ともいえる状況だ。
ムーディーズは見通しを「ネガティブ」とした昨年11月のレビューで、同国の財政や経済が弱い状況が続けば格下げの可能性があると指摘。現行の格付け維持には、債務増加を食い止めようとする政府の取り組みが「極めて重要」と警告していた。
だが慢性的な財政赤字改善に向けた道のりは険しい。2月下旬に示された20年度の予算案では、当面の財政収支の見通しを下方修正した。ムーディーズは2月のリポートで20~21年の成長率予測を下方修正しており、市場では「新型コロナで経済の下押し圧力はさらに強まっている。格下げリスクはかつてないほど高い」(マネースクエアの八代和也氏)との声が多い。
格下げとなればランド相場はどうなるか。機関投資家は足元のランド安の過程で南アへの投資比率を下げているとみられる。ただ、主要な3つの格付け会社全てがそろって南アを「ジャンク級」とすれば、そのインパクトは大きく、中長期的な投資資金の流入は一段と細りそうだ。
市場では「新型コロナによるリスク回避ムードが強いなかではランド安は進みやすい。対ドルでは20ドル、対円では5円台への下落に注意が必要」(八代氏)と最安値更新を警戒する声が少なくない。
※日経QUICKニュース(NQN)が配信した注目記事を一部再編集しました。QUICKの情報端末ではすべてのNQN記事をリアルタイムでご覧いただけます。