NQNニューヨーク=横内理恵
6日の米債券市場で米長期債相場は3日続落した。新型コロナの感染拡大が近くピークを迎えるとの期待から主要国の株式相場が大幅上昇し、相対的に安全資産とされる米国債の重荷となった。ただ、たとえ今後1~2カ月にいったん収束を迎えるとの見方が強まったとしても、景気回復の道筋は不透明だ。新型コロナウイルスの米経済への影響が本格化するのもこれからだ。長期金利の指標である10年債利回りは1%を大幅に下回る水準に沈んだままで、利回り上昇が加速するとは考えにくい。
6日の10年債利回りは前週末比0.07%高い(価格は安い)0.67%で終えた。主要国の株式相場の上昇を受けて投資家のリスク回避姿勢が和らぎ、債券市場からの資金流出につながった。
■落ち着き取り戻す米債市場
米国債市場にはおおむね流動性が戻っている。米連邦準備理事会(FRB)が米国債購入や短期金融市場への資金供給を続けており、社債や地方債市場の支援策も決めた。先週1日には大手銀の「レバレッジ比率」算出において資産から米国債を一時的に除外することで資本規制を緩和し、米国債市場をさらに安定させる策も発表した。新型コロナを受けた米景気の悪化が急激かつ深刻になるのは疑いようがなく、景気懸念から債券相場の下値も堅い。
6日にはバンク・オブ・アメリカが、米政府の2兆ドルの経済対策の一環で3日に始まった中小企業向けの融資制度にすでに18万件近い申請があり、融資枠の3500億ドルの1割弱の応募があったと明らかにした。中小企業が雇用を維持できるよう政府が2カ月程度の給与支払いを肩代わりする制度で、一定の効果は期待できそうだ。ただ融資を申請せずに解雇や一時帰休を選ぶ企業も多く、失業の波が止まる保証はない。
■イエレン・シナリオ
イエレン前FRB議長は6日のCNBCのインタビューで「失業率はすでに12~13%に上昇しているだろう」との認識を示した。4~6月期の米実質国内総生産(GDP)は30%前後(前期比年率)の落ち込みとなるとみる。経済活動は6月もしくは夏から回復に向かうものの、その度合いやスピードについては「(倒産など)どの程度の経済的なダメージがあったかによる」と話した。雇用や設備投資がすぐには増えないうえ、家計の節約志向などが長引く可能性があるという。
大規模な経済対策や量的緩和の景気刺激効果は大きいとみられる。一方でサービス業の雇用がすぐに戻らず、失業率が高止まりするとの予想もある。ヌビーン・アセットマネジメントのボブ・ドール氏も「人々の長期的な行動変化を目撃することになるだろう」と予想する。新型コロナが次の冬にまたまん延するとの警戒感などから米国民が雇用の安定を求め、消費者が貯蓄率を高める可能性があるという。大規模なカンファレンスやイベント開催、ビジネス用途の出張などがしばらく控え気味になるとの見方もあり、景気がV字回復するとの予想は楽観的過ぎる可能性がある。
今週も週間の米新規失業保険申請件数が引き続き高水準となるとみられるほか、9日発表の4月の米消費者態度指数(ミシガン大学調べ)速報値などに家計の心理の冷え込みが現れ始めるとみられる。足元で過度なリスク回避ムードや流動性懸念はひとまず和らいでいるが、実体経済に痛みが広がるのはこれからで、その後の回復を相場が織り込みに行くのはまだ早いのかもしれない。