NQN香港=柘植康文
香港で政府と民主派の政治的緊張が再び高まっている。香港警察は4月18日に民主派団体の有力政治家ら15人を逮捕した。香港は6月で大規模デモから1年の節目を迎え、秋には議会の選挙も控える。新型コロナウイルスの域内での感染は一服しつつあるが、感染収束後は市民と香港政府・中国本土の対立が再び先鋭化するリスクが高まっている。コロナ後も投資家や事業者の間では域内情勢の混迷への警戒が続きそうだ。
■突然の逮捕
警察が逮捕したのは、民主派政党の創設者で「香港民主主義の父」と呼ばれる李柱銘(マーティン・リー)氏や香港紙の蘋果日報(アップル・デイリー)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏らだ。いずれも昨年の反政府デモで違法な集会に参加したことが逮捕容疑とされた。摘発は中国本土の意向を反映したとみられている。
民主派からは早速反発が強まっている。逮捕者には大規模デモを主催した民主派団体「民間人権陣線」の幹部も含まれた。団体は「いかに強い弾圧を受けても、我々は(普通選挙実施などの)五大要求を掲げ続ける」と表明し、7月1日の中国への返還記念日に大規模デモを実施すると呼びかけた。突然の逮捕には欧米からも非難の声があがる。ポンペオ米国務長官は声明で「中国政府は法の支配、高度な自治を保障した中英共同宣言と矛盾した行動をとり続けている」と非難した。
■「ダブルA」から「ダブルAマイナス」に
足元の香港経済の状況は深刻だ。格付け大手のフィッチ・レーティングスは20日、香港の長期債務格付けを「ダブルA」から「ダブルAマイナス」に1段階引き下げた。香港は反政府デモによる混乱に続き、新型コロナの感染拡大という「第2の衝撃」に直面していると指摘。20年の香港の域内総生産(GDP)は5%減と予想し、2年連続のマイナス成長を見込む。フィッチは昨年9月にも香港を格下げしたばかりだった。
フィッチは香港の不安定な政治情勢も格下げの理由としてあげた。大規模デモは一時的に休止しているものの、「香港社会の根深い政治的な分断は未解決だ」と説明した。中国の統治システムへの統合が徐々に進んでいる一方、市民の不満が噴出して香港の政治的安定性に対する国際的な認識を一段と悪化させかねないとの警戒感を示した。
■新型コロナへの警戒は一服
香港では20日、新型コロナの新規感染者が3月5日以来、約1カ月半ぶりにゼロとなった。その後も新たな感染者は1桁台が続いており、市民のコロナへの警戒は一服しつつある。半面、政治的緊張は徐々に増している。
香港は、秋にかけて政治的な緊張が高まりやすい節目をいくつも控えている。6月には4日に毎年、天安門事件の追悼集会が開かれているほか、9日に主催者発表で100万人を動員した大規模デモから1周年を迎える。7月1日には中国への返還記念日があり、9月には立法会選挙も予定されている。
香港のハンセン指数は19年に9%上昇にとどまり、上昇率は上海総合指数や米ダウ工業株30種平均の22%、日経平均の18%を大きく下回った。デモ激化後は観光客の急減で小売売上高が2割減となるなど、経済の落ち込みや社会不安が投資家心理に影を落とした面は否定しがたい。
東洋証券亜洲の●(龍の下に共)静傑・研究主管は「感染終息後には反政府デモは再開されるだろう」とし、「昨年のように激しいものとなれば、香港の小売りや観光関連の企業は一段と厳しい状況に追い込まれる」と話す。
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