日経QUICKニュース(NQN)=田中俊行
12日の東京市場でホテル系不動産投資信託(REIT)のインヴィンシブル投資法人(8963)が急落した。11日に2020年6月期の分配金が大幅に減る見通しを示したからだ。新型コロナウイルスの影響で、保有するホテルの稼働率が大幅に低下し、ホテル運営会社の経営が行き詰まるリスクが浮上。賃料の引き下げや運営会社の支援に応じたという。他のホテル系REITも大きく売られており、INVの決断は波紋を広げそうだ。
■分配金は当初予想から98%減
INVの投資口価格は12日、前日比7000円(23%)安の2万3900円と制限値幅の下限(ストップ安水準)で引けた。11日の取引終了後に20年6月期の分配金予想の修正を発表した。1口あたりの分配金は2月20日に1812円と予想していたのを4月24日付で「未定」に変更。それを今回30円にするとした。当初の予想に比べると98%減という大幅な引き下げだ。
■保有ホテルの固定賃料を免除
INVは国内で83のホテルを保有し、そのうち73をマイステイズ・ホテル・マネジメント(東京・港)が運営している。INVはマイステイズから固定賃料と利益に応じて決まる変動賃料を受け取ってきた。主要テナントであるマイステイズから受け取る賃料は分配金の原資だったが、3~6月までの固定賃料の支払い免除や、物件管理費をINVが肩代わりすることなどを決めた。
新型コロナでホテル利用客が激減し、稼働率は大きく低下している。INVが保有するホテルのうち、固定賃料契約分を除いた75物件の客室稼働率は2月時点の74.9%から、3月には43.8%に悪化。4月は26.6%に落ち込み5~6月も20%台での推移となる見通しだ。INVは「マイステイズの賃料支払い義務やホテル運営費用を考慮すると、INVが支援しない限りマイステイズが倒産する可能性を否定できなかった」と固定賃料の免除に踏み切った理由を説明している。
ホテルの苦境は想像できたとはいえ、分配金の大幅引き下げは「投資家の動揺を呼んでいる」(国内証券のアナリスト)。INVは2027年までの分配金は年間3400円を下回らないようにするとの下限目標を設定し、19年12月末時点で127億円あった内部留保を活用するとしていた。だが今回は不測の事態に備え、内部留保を取り崩さないと表明したため、売りに拍車が掛かった。
「ガバナンスの観点で意思決定のプロセスの丁寧な説明が必要だ」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の石井翔大アナリスト)との声もある。INVのスポンサー(物件供給元)はソフトバンクグループ(9984)傘下の米投資ファンド、フォートレス・インベストメント・グループだ。一方、マイステイズもフォートレスのファンドから間接的に出資を受けており、利害関係者にあたる。INVは「利益相反の対策のための社内規定に沿い、独立する監督役員により決定された」としている。
■ホテル系REITは軒並み下落
固定賃料の免除という厳しい判断を迫られたINVを受け、野村証券の荒木智浩リサーチアナリストは11日付リポートで「ホテル市場は想定されていた以上に苦境に陥っている」と指摘する。分配金の大幅見直しは他のホテル系REITでも起こるのではないか――。12日の東京市場でホテルリート(8985)が一時12%安、いちごホテル(3463)が同10%安に沈むなど、ホテル系REITは軒並み売られた。
ホテル系リートの業績悪化を機に、弁済順位が劣後するというREITのエクイティの性質が改めて認識されれば、債券代替としてのREIT投資に慎重になる向きも増えるかもしれない。経済活動再開の期待が浮上しても、先行きの不透明感はしばらく拭えそうにない。
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