任天堂(7974)株の上値が重くなってきた。新型コロナウイルスがもたらした生活様式の変化でゲーム需要が増えるという見方から4月に4万7270円の年初来高値を付け、5万円台に再トライかと言われたが、その勢いは鈍った。癒し系ゲームの代表格として「あつまれ どうぶつの森(あつ森)」は空前のブームを巻き起こした。株式市場では次のけん引役が何になるかを見極めようとしている。
■外出自粛でヒットした「癒し系」
あつ森は3月の発売から12日間で世界で1177万本を売り上げ、「ニンテンドースイッチ」向けソフトとして過去最高のヒット作となった。外出自粛で人と思うように会えないなか「離れてもつながる」安心感が無人島での生活を楽しむほんわかした雰囲気とともに、自粛疲れした多くの消費者の心を癒やした。
日本経済新聞社がこのほどまとめた2020年上期の日経MJヒット商品番付でも西の横綱に選ばれた。あつ森効果でスイッチも品薄になり、中古品にはプレミアム価格がつくほどになった。
■ゲームとしてピークでも利益落ち込みは緩やかに
スイッチは17年の発売から3年が経過した。SMBC日興証券の前田栄二シニアアナリストは5日付リポートで「任天堂の株価は主力製品である家庭用ゲーム専用機のプロダクトライフサイクルに伴う利益の変動を1~2年程度先行して織り込む傾向が見られる」と説明する。
そのうえで、スイッチは「サイクルの中盤にあると考えられ、株価は利益ピークアウトを織り込む局面にあるとみられる」と指摘した。
前田氏の指摘で重要なのは「スイッチは過去の任天堂のゲーム機と比較してプロダクトライフサイクルピークアウト後も利益の落ち込みが緩やかになると予想される」という点だ。
ひとつのカギを握るのはソフトの多様化だと考えられる。ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次チーフエコノミストはゲームの立ち位置について「『時間潰し』の延長線上にある『実用性』を見据えたソフト開発が加速する」と話す。
■アフターコロナは「実用系」ソフトの時代か
例えば、学校が提供する共通の学習ソフトではなく、習熟度別に学べる教育ソフトや、健康維持に重点を置いたソフトが想定されるという。学びにゲームの要素が加わることで「勉強は机に向かってするもので、ゲームは勉強の大敵という固定概念は覆される」とみている。
コロナによってバーチャルとリアルの垣根がますます低くなるのは確かな流れと言える。人気の既存ソフト「ポケットモンスター ソード・シールド」はコンテンツの追加配信を控え、「飽きたら次のソフトを買う」という選択肢だけではなくなってきている。
もちろん、ソフト開発を巡ってはソニー(6758)や、グーグルなどが参入しているクラウドゲームとの競争激化も予想される。それでも任天堂はスイッチやキャラクターの世界的な知名度の高さを武器に優位性を保てるという期待は根強い。
外出自粛と発売時期が重なる偶然も追い風になった「あつ森」のヒットから、今度は必然的な時代の変化をしっかりつかめば、再び上値を追うチャンスは十分にありそうだ。〔日経QUICKニュース(NQN)尾崎也弥〕