中国の半導体受託生産会社(ファウンドリー)で香港上場の中芯国際集成電路製造(セミコンダクター・マニュファクチャリング、SMIC)が、中国・上海のベンチャー向け市場「科創板」に上場する。SMICは2019年、15年間にわたる米国での上場を廃止したばかり。香港市場では近年、米上場の中国企業の重複上場が相次ぐが、SMICはさらに進んで香港と上海の重複上場を目指す。米中対立の長期化もあり、米国から香港、そして本土へとたどる道筋は、海外に上場する中国企業の「本国回帰」のモデルケースになるかもしれない。
■「上場は好調な滑り出しとなるだろう」
SMICが1日に上海証券取引所で発表した目論見書によると、今回の科創板上場で16億8562万株を新たに公開し、200億元の資金を調達する。調達した資金は新型チップの生産などに充てる。資金調達額は、19年に開業したばかりの科創板市場で過去最大となる見通しだ。
公開価格や実際の上場日は未定。ただ地元メディアの報道では、上場審査は異例の速さで進んでおり、中国当局がSMICの回帰を歓迎している様子が分かる。「半導体事業を強化したい中国政府の後ろ盾が期待できる企業。上場は好調な滑り出しとなるだろう」(TCコンコルド証券投資総監・潘鐵珊氏)。香港市場でも、SMICの株価は今年に入り9日までに6割強も上昇した。
■米上場はアメリカン・ドリームの実現ではなかった
SMICは04年に香港と米ニューヨークに上場した。当時は「走出去」を合言葉に、中国企業が海外進出を加速していた時代。金融市場では、中国国内の株式市場が開業して10年あまりと日が浅く構造的に未熟だったこともあり、米国や香港へ上場する企業が相次いだ。特に情報技術(IT)ベンチャー関連には、種類株を発行するなど普通株と異なる株式構造を持つ企業も多く、そうした企業を受け入れる米国に上場するケースが多かった。
しかし、米国上場はアメリカン・ドリームの実現ではなかった。多くの企業は顧客のほとんどが中国国内に在住する中国人。米国での知名度が低いため、株価低迷に苦しんだ。上場維持費の方がかさむとして、16年に米上場を廃止しその後上海に上場した三六零安全科技のように「上場を返上」するケースも出始めた。SMICの米上場廃止も、売買や株価の低迷を受けて長く計画していたという。14年に米国に上場した中国電子商取引(EC)最大手アリババ集団は、香港市場が種類株企業の上場を解禁して条件が整うや、香港に重複上場した。
■米上場の中国ネット大手が相次いで重複上場
折しも、香港市場には11日にゲームの網易(ネットイース)、18日にはECの京東集団(JDドットコム)と、米上場の中国ネット大手が相次いで重複上場する。トランプ米大統領は今月、米上場の中国企業への監視策の検討を命じた。米国で中国企業への締め付けが強まるなか、海外投資家からの投資が得られて中国での知名度の効果も期待できる香港市場は、当座の撤退先には最適だ。ネットイースの丁磊最高経営責任者(CEO)は5月末、香港上場について「ネットイースのルーツに近い市場に戻ることは我々のビジネスをさらに強くする」とのコメントを発表した。
しかし、香港はあくまでも「近い」市場にすぎない。SMICが今回上場する科創板は、種類株企業の上場も受け入れる。「中国株式市場の構造改革が進めば、中国企業の本土回帰も進む」(TCコンコルド証券の潘氏)。中国企業が「走出去」に狂奔した時代は既に過ぎた。将来の中国企業の上場先として米国や香港の株式市場の立ち位置を占う意味でも、SMICの動向が示唆するものは多そうだ。(NQN香港 桶本典子)