円相場がじわり上昇している。23日の海外市場では一時1ドル=106円08銭近辺と1カ月半ぶりの水準に上昇し、節目の106円ちょうどに迫った。円高の背景として市場が思い浮かべるのは投資会社、ソフトバンクグループ(SBG)の姿。保有する米通信大手、TモバイルUS株の売却に伴い、巨額のドルを円に替えるとの思惑だ。
■Tモバイル株の売却額は2.2兆円
SBGのTモバイル株の売却額は、足元の市場価格からはじいて最大210億ドル(約2兆2000億円)となる。日々の東京市場の円とドルの出来高の数倍の規模だ。
市場では「このところ107円台で円の下値が堅くなっていたが、SBGが発表前に円買い・ドル売り注文を出していたのではないか」(国内証券の為替担当者)との声が聞かれる。一方、規模が規模だけに「注文は小出しに行われるに違いない」との臆測も入り交じる。
■思い出すのはスプリント買収時の円安
逆の動きを思い出す市場参加者は少なくない。2012年10月、ソフトバンク(現在のSBG)がスプリント・ネクステル(今年春にTモバイルと合併)を約200億ドル(当時のレートで約1兆5600億円)で買収すると伝わった時だ。
このころ円は78円台前半の円高局面にあったが、買収検討が明らかになると円は軟調になった。正式な発表があってからも売り材料視され、円はおよそ2週間で80円台まで下落した。
■ドル円相場は105円台突入も
こうした過去のM&A(合併・買収)の事例から、三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作氏は「1兆円の資金フローで70~80銭ほど動く可能性がある」と分析する。今回のTモバイルに当てはめると、1円50銭ほどの円高・ドル安要因というわけだ。
SBGの円転の真相はやぶの中だが、うわさや観測がからまって円が105円台に突入してもおかしくはない。新型コロナウイルスの問題で、どこもかしこも懐は痛んでいる。「景気悪化で国内企業の海外資産の売却や、リパトリエーション(本国への資金環流)への思惑が浮かびやすい」と、UBSウェルス・マネジメントの青木大樹氏は話している。