いまや時価総額が約2800億ドル(30兆円)とトヨタ自動車(7203)を上回り、1日で米ゼネラル・モーターズ(GM)1社分の時価総額が増減することもある米テスラ。世界中の投資家が最も注目する電気自動車(EV)メーカーが7月22日に2020年4~6月期決算を発表する。今回の決算発表シーズンの天王山の一つだ。内容次第で新たに巨額のマネーがテスラ株に流れる可能性があるが、テスラは決算で失望されることも多い。投資家は注意が必要だ。
■「ネガティブサプライズ」や「株価下振れ」
QUICK・ファクトセットのデータを使い、過去5年の四半期決算の20回分について、1株利益(EPS)の実績が市場予想とどれだけ乖離(かいり)し、決算発表直後に株価がどう動いたかを検証した。その結果、市場予想を10%以上下回ったか、赤字幅が10%以上大きかった「ネガティブサプライズ」は11回に上った。
10%以上上回ったか、赤字幅が10%以上小さかったか、あるいは赤字予想に反して黒字だったケースは7回だった。
発表翌日の株価騰落率を調べると、下落率最大は19年4~6月期の決算発表翌日(7月25日)の14%、上昇率最大は同7~9月期決算発表を受けた10月24日の18%。騰落率のばらつきを示す標準偏差(生起確率7割弱)は9%上昇から8%下落の範囲に分布した。アップルやマイクロソフトなどに比べ、ネガティブサプライズが起きたり、株価が下振れしたりする可能性が高いのが特徴だ。
■S&P500に採用か
株価は14日までの1カ月間で一時2倍近くになった。その一因とされるのが指数採用の思惑だ。4~6月期の最終損益が黒字(前年同期は4億833万ドルの赤字)なら4四半期連続の黒字となり、米S&P500種株価指数の組み入れ条件をクリアするという。4~6月期の世界販売台数が市場予想を上回り、期待がにわかに高まった。ロイター通信によれば、仮にS&P500に採用されると指数連動運用ファンドは2500万株、金額で340億ドルのテスラ株を購入する必要が生じるという。
期待が高い分、赤字なら失望売りが膨らみやすい。ファクトセットがまとめた市場のEPS予想(非米国会計原則ベース)は47セントの赤字だ。
■ロビンフッダーも注目
手数料ゼロの株式取引用スマホアプリ、「ロビンフッド」経由の個人投資家、いわゆる「ロビンフッダー」は、22日を決戦日ととらえているはずだ。15日時点でテスラ株を保有するロビンフッダーは48万人と2カ月で2倍以上に膨らんだ。平均年齢31歳といわれ、経験が浅い投資家だけに決算内容に一喜一憂し、世界の株式市場のかく乱要因になりかねない。
もちろん、決算がポジティブサプライズだった場合は、空売りの買い戻しで株高がさらに加速する可能性もある。6月30日時点で空売りの未決済残高(株数)は1395万株と3月13日時点から14%減少したが、株高に伴い株数に時価を掛けた金額ベースは150億ドルと70%増加した。直近では200億ドルを超えた可能性がある。これを潜在的な買い需要と考え、指数採用絡みの買い需要と合わせれば540億ドルに達する。
テスラの15日終値は1546.01ドルだが、今週は17日に期限を迎える権利行使価格が2500ドルのコールオプションが大きく買われる場面もあった。投機家に大人気のテスラ株だが、まだ年間を通じて1度も最終黒字になったことがない。冷静に考えれば、540億ドルの現実味は乏しいだろう。〔日経QUICKニュース(NQN)永井洋一〕