HSBCアジア太平洋地域 国際事業部門統括責任者 兼 戦略企画統括責任者のマシュー・ロブナーがコロナ後のアジア新興国についてリポートします。
新型コロナウイルスの感染拡大への対応が求められる中、アジアの新興国は、国によってそれぞれ異なる段階にいる。一部の国では光明が見え始め、経済活動が再び拡大し始めている。依然として感染拡大が続き、ロックダウンを余儀なくされている国もある。どの段階にあるにせよ、危機を乗り越えた先の長期にわたる経済的繁栄に向けて、何を為すべきかを考えるべきだろう。
トレンドは長期の成長に
アジアの開発途上国は新型コロナによる社会と経済の混乱と無縁ではなかった。移動制限に加え、対人距離を確保する措置によって世界中の貿易と雇用は打撃を被った。アジアの大半で財政赤字が拡大し、全体的な債務水準も上昇が続くだろう。観光やビジネス、また消費者信頼感が回復しても、コロナ感染の再拡大への懸念や、世界を取り巻く厳しい経済環境に圧倒されそうな状況と言える。
しかし、短期的な課題はあるものの、多くの開発途上国のトレンドは、長期の成長につながっている。これを忘れてはならない。
アジア新興国のほとんどは人口構成が良好でインド、バングラデシュ、東南アジアでは20歳以下が人口の3分の1以上を占めている。さらにイノベーションだけでなく、質の高い製品やサービスを提供できるようになってきた。その証拠に電子商取引や電子決済サービスを提供する国内企業が数多く誕生している。新型コロナ危機を受けて家計や企業、起業家が、買い物、販売、金融取引、学習、コミュニケーションの新しい方法を模索する中で、新たなアイデアやテクノロジーを探る動きが強まっている。
アジア新興国は1997~98年のアジア通貨危機や2008年の世界金融危機の当時と比べ、金融分野での外的衝撃に耐える力がついた。外貨準備は増加し、対外債務の水準は下がった。経常収支も改善している。2020年に入り新型コロナ危機が広がると、各国の政府と中央銀行は家計やビジネスを支援するため利下げや財政刺激策、流動性の供給など一連の対策を早々と打ち出した。
それでも新型コロナによる打撃は長期化するとみられる。政策当局は緊急の経済支援策に加え、投資先として、また事業の拠点として、自国経済の魅力を高めるために大胆な施策を講じることが得策だろう。
気候変動への備えも重要
注力すべき分野として、以下の3点が挙げられる。
第一に現地の事業環境を改善してビジネスをしやすくすることだ。これには官僚的形式主義や腐敗の排除、海外からの投資規制の緩和、労働市場改革など様々なことが含まれる。多くの国がこれらの分野で目覚ましい進歩を遂げているが、さらに推進すればこれらの国々にとって有益となる。
二つ目は投資を通じた競争力と生産性の向上だ。なかでも輸送とエネルギー・インフラ、通信とインターネットの接続性、ヘルスケア、教育、スマートかつ低炭素な方法による都市化が挙げられる。これらは開発途上国の長期的な成長見通しを強化し、ロボティクスやオートメーション、3Dプリンターや人工知能など技術を進歩させるカギを握る。
第三の分野は気候変動への備えだ。東南アジアと南アジアにはダッカ、ホーチミン、ジャカルタ、バンコク、ムンバイなど海抜が低く暴風雨や海面上昇の影響を受けやすい大都市が存在し、気候変動の影響にさらされやすい。国や地域が気候変動の脅威に耐える力こそ、企業や投資家がどこでビジネスを展開するかを決める要因になっていく。
新型コロナはほんの数カ月前には想像もできなかった人的、経済的被害をもたらした。影響は何年ではないにしても何カ月も続くとみられる。しかし、他の危機の例に漏れず、政策当局者と実業界にとって改革の目標を見直して、さらに進める機会でもある。このチャンスを捉える国こそ、苦難の先に光明を見つけ、将来に向けた健全なファンダメンタルズを手に入れられる。