不振企業でも買収して社員の能力を引き出し、収益力を高める「永守マジック」はコロナ禍でも健在だった。日本電産(6594)が7月21日発表した2020年4~6月期の連結決算(国際会計基準)は、そうした同社の強みが表れた内容だった。22日の日電産株は1月24日に付けた年初来高値(7922円50銭)を寄り付きで上回り、一時は前日比536円(6.8%)高の8384円まで買われた。
■コスト削減の効果大きく
4~6月期の連結売上高は前年同期比7%減の3368億円と減収だ。新型コロナウイルスの感染拡大で自動車メーカーが5月中ごろまで工場の操業を停止し、車載事業の売上高が25%減った。厳しい環境にもかかわらず、営業利益は前年同期比2%増の281億円と増益で着地した。前回の決算発表時に掲げたコスト削減策の効果が早くもみられる。アナリスト予想平均であるQUICKコンセンサス(17日時点、11社)の180億円を大きく上回り、市場にとってもサプライズといえる内容だ。
奏功したのは徹底した費用削減だ。日電産は20年3月期の決算発表時に部品の内製化やサプライチェーンの見直しなど構造改革を進めると発表し、「ピーク時の売上高から半減しても営業利益を確保できる体質作り」を目標としていた。
■「WPRの結果だ」
4~6月期は低迷する車載事業でも構造改革が進んだ。同事業の売上高(電気自動車向け駆動部品や昨年、オムロンから買収した車載子会社、日本電産モビリティを除くベース)は前年同期比でほぼ半減したが、営業黒字となった。日本電産モビリティも同様だ。「内製化を進め、損益分岐点比率を7割程度から5割弱まで引き下げた」(関潤社長執行役員)
固定費を見直した結果、連結の営業利益率は8.3%と前年同期比で0.6ポイント改善した。「4~6月期の営業利益(281億円)のうち100億円がWPR(生産性倍増プロジェクト)の結果だ」(永守重信会長兼最高経営責任者)。永守氏は、売上高の回復と歩調を合わせて収益性が改善すると強調した。
■「投資家の買いが続きそうだ」
市場参加者が成長分野と位置付ける電気自動車の駆動部品「トラクションモーター」の需要も底堅いようだ。日電産のトラクションモーターを採用する車両の販売動向は今年1月以降大きく落ち込んだが、2月を底に足元では復調しつつある。「グローバルで15社の受注が完了した」(関氏)といい、裾野は拡大している。
ある外資系証券のアナリストは決算発表前に「新型コロナの悪影響を大きく受ける4~6月期を通過すれば、精密小型モーターの反動増などが見込まれ業績は安定する」と予想していた。日電産は2021年3月期の業績予想を据え置いたが、営業利益の上期計画に対する進捗率は51%と順調だ。岡三証券の小川佳紀・日本株式戦略グループ長は、「増益達成企業の希少さに着目した投資家の買いが続きそうだ」とみていた。
◆日電産の4~6月期決算のポイント
- 構造改革の効果で市場予想を大幅に上回る
- 車載事業の損益分岐点比率を引き下げ
- 「トラクションモーター」の受注15社に拡大
市場予想 | 実績 | |
売上高 | 3129億円 | 3368億円 |
営業利益 | 180億円 | 281億円 |
純利益 | 126億円 | 202億円 |
売上高営業利益率 | 5.80% | 8.30% |
注)市場予想はQUICKより
〔日経QUICKニュース(NQN)田中俊行〕
<金融用語>
QUICKコンセンサスとは
証券会社や調査会社のアナリストが予想した各企業の業績予想や株価レーティングを金融情報ベンダーのQUICKが独自に集計したもの。企業業績に対する市場予想(コンセンサス)を示す。一方、「QUICKコンセンサス・マクロ」は、国内総生産や鉱工業生産指数など経済統計について、エコノミストの予想を取りまとめたものをいう。 QUICKコンセンサスを利用したものとして、QUICKコンセンサスと会社予想の業績を比較した「QUICK決算星取表」や「決算サプライズレシオ」、QUICKコンセンサスの変化をディフュージョン・インデックス(DI)という指数にした「QUICKコンセンサスDI」などがある。また、「QUICKコンセンサス・プラス」は、アナリストの予想対象外の銘柄に会社発表の業績予想などを採用して、国内上場企業の業績予想を100%カバーしたものをいう。