4~6月期の企業決算発表が本格化している。いち早く発表された米銀決算は、資金調達の活発化や市場の乱高下でトレーディング収入が増加したことなどにより、増益を確保した先が多かった。この3か月間は、新型コロナの影響を受け続けた。過去にない事象が発生しただけに、4~6月期決算の結果に注目する市場関係者は多い。特に注目を集めるのはテスラの決算とバリューリバーサルのきっかけになるかという2つの点だ。
■テスラ、S&P500採用か
4~6月期決算で最も注目度の高い企業の1社はテスラ(TSLA)と言えそうだ。テスラは2019年4~6月に1株利益(EPS)が1.12ドルの赤字となって以降、3四半期連続で黒字となった。22日発表の20年4~6月も黒字となり4四半期連続を達成。これでS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスがS&P500種株価指数の採用基準として定める「4四半期連続で黒字の利益を維持していること」をクリアした形となった。その他の基準である「時価総額53億ドル以上」は21日の終値時点で3000億ドルを上回っており、全く問題ない。また、「浮動株が発行済株式総数の50%以上」は直近の浮動株比率が79.5%(FactSet)となっており、こちらも採用基準を満たしている。
ゴールドマン・サックスは16日付リポートで「テスラがS&P500に採用されるにはFactSetがまとめる市場予想を上回る必要がある」と前置きしつつも、「6月29日にイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)が社内メールで、4~6月の収支をトントンにするために従業員に対し全力を尽くすよう求めたことから、4四半期連続黒字というS&P500採用基準を満たす可能性がある」と補足した。
■予想がつかない、個人投資家の動向
なお、ゴールドマンは2018年以降、S&P500に新規採用となった銘柄の株価パフォーマンスを分析。新規採用発表アナウンスの直前1カ月間において、当該銘柄はS&P500を約300bpアウトパフォームした一方、新規採用発表後の1カ月間はS&P500を約200bpアンダーパフォームしていたという。
ある国内証券のトレーダーは「年初来で株価が4倍にまで上昇していることもあり、テスラがS&P500に採用されたとしても出尽くし売りに押される可能性がある。特に個人投資家のセンチメントに与える影響は注意が必要」と指摘する。13日、テスラの株価が16%高から3%安と日中に乱高下する中、投資アプリ『ロビンフッド』の4万件近い口座でテスラ株が買われていた。直近もテスラの株式を保有する個人投資家は増加し続けている。「給付金などで懐が潤っているだけに、個人投資家の動向はこれまでと異なり、全く予想がつかない。好調な米国株の代表ともいえるテスラの株価が崩れてしまうのか。今回の決算はその内容に加え、需給要因からも特に注目が集まっている」(前出のトレーダー)との声が聞かれた。
■今期業績予想の発表有無に注目
日本企業の決算にも注目が集まる。27日以降も決算発表が相次ぎピークとなる8月7日には600社以上の発表が予定されている。
日本企業においては今期業績予想の発表有無に注目が集まる。東証株価指数(TOPIX)採用企業で、20年6月末時点において今期の業績予想を公表した企業は530社あるが、これは全体の約35%に過ぎず、例年と比較しても際立って少ない。
なお、今期業績予想を発表した企業の単純平均PBR(株価純資産倍率)は1.98倍(連結ベース)と、TOPIXのPBR1.2倍(7月21日終値時点)を大きく上回っている。今期業績予想を既に公表している高PBR企業はベネフィット・ワン(2412)やイー・ギャランティ(8771)などだ。21日終値時点での年初来騰落率はベネ・ワンが2.9%安、Eギャランティは115%高と、いずれもTOPIXの8%安に比べて堅調だ。
■業績ビジビリティ
野村証券は21日付リポートで、「業績見通しのビジビリティ(視界)が高い銘柄群とビジビリティが低い銘柄群の格差は、過去35年で見ないレベルに拡大している」と指摘し、「マーケットは将来の業績ビジビリティと言うものに極めて高いプライシングをして、一般的なファンダメンタルズ指標では説明できない程のバリュエーションの二極化をもたらした可能性がある」とした。
その上で、「ビジビリティに対する評価が変わるときに二極化相場にも変化が訪れるかもしれない」とし、「4~6月期決算発表シーズン後の全体的なビジビリティの変化、本決算発表時点で非開示とされた通期予想の開示状況などに注目したい」との見方が示されている。
ある外資系証券のトレーダーは「依然として厳しい経営環境が続いている企業は、4~6月期決算も軟調な結果となる可能性が高い。それでも、会社側から今期業績予想が発表されれば、厳しいながらも投資家サイドで今後のシナリオが描ける。数字さえ出れば、とりあえず市場は好感するという展開もあり得るかもしれない。結果として、これまで上昇してきたグロース株から、出遅れていたバリュー株へのリバーサルもあり得るだろう」と語った。(QUICK Market Eyes 大野弘貴)