エムスリー株(2413)の上昇が止まらない。新型コロナ禍で医療機関のデジタルトランスフォーメーション(DX)が進展するとの期待で買われてきたが、7月29日に発表した4~6月期の連結決算(国際会計基準)はその期待に十分応えるものとなった。医療界の一大プラットフォームを築き、利益成長を続ける姿は米国のIT大手、「GAFA」にも似た側面がある。
■メディカルプラットフォーム事業
エムスリー株は30日、一時前日比460円(9%)高の5580円まで買われ上場来高値を更新した。終値は310円(6%)高の5430円で、年初からの上昇率は6割を超える。4~6月期の連結純利益は前年同期比32%増の64億円と、同期間として過去最高を記録した。「期待先行で買われてきたとはいえ、この決算を見せつけられたら売れない」(国内運用会社のファンドマネージャー)との声が漏れる。

市場を最も驚かせたのが、主力である医療従事者向け情報サイトなどのメディカルプラットフォーム事業の伸びだ。他の治験支援事業などが振るわないなか、前年同期比70%増の62億円の利益を出した。
この事業は製薬会社が医薬品の情報を提供し、エムスリーに手数料を支払う仕組みだ。新型コロナの感染拡大で、医薬情報担当者(MR)によるこれまでのような対面営業が難しくなり大きく需要が伸びた。今後の売り上げにつながる4~6月期の製薬マーケティング支援の受注金額も前年同期に比べ2.5倍以上になった。
■競合は見当たらない
野村証券は29日付のリポートで、目標株価を5300円から6000円に引き上げた。担当の繁村京一郎リサーチアナリストは新たな製薬企業から需要獲得ができている点に加え「(画像診断支援による)AIプラットフォーム事業は全国100の医療機関への無償提供による種まきが始まり、中長期の成長源となる」ことに注目している。
顧客にプラットフォームを無料で使ってもらい、集めたデータをビジネスにつなげる--。まさに米国のIT企業さながらのやり方で、いまのところ同じ業界で競合は見当たらない。LINEと共同出資するLINEヘルスケア(東京・新宿)を通じたオンライン診療サービスを今後打ち出す予定など、新たな材料にも事欠かない。
エムスリーの時価総額は3兆6000億円台まで増え、今やみずほFG(8411)、三菱商(8058)を上回り、東証1部で29位にまで上り詰めた。日本の主力銘柄といっても過言ではない。
「新型コロナが収束すれば医療現場のDX化が進まなくなる」(国内運用会社)といったリスク要因も将来は出てくるだろうが、現時点では想定しにくい。予想PER(株価収益率)は100倍以上、PBR(株価純資産倍率)が20倍以上と投資指標面からは過熱しているようにみえるが、エムスリー株に「買われ過ぎ」という言葉は現時点ではふさわしくないようだ。〔日経QUICKニュース(NQN)矢内純一〕
<金融用語>
PBRとは
Price Book-value Ratioの略称で和訳は株価純資産倍率。PBRは、当該企業について市場が評価した値段(時価総額)が、会計上の解散価値である純資産(株主資本)の何倍であるかを表す指標であり、株価を一株当たり純資産(BPS)で割ることで算出できる。PBRは、分母が純資産であるため、企業の短期的な株価変動に対する投資尺度になりにくく、また、将来の利益成長力も反映しにくいため、単独の投資尺度とするには問題が多い。ただし、一般的にはPBR水準1倍が株価の下限であると考えられるため、下値を推定する上では効果がある。更に、PER(株価収益率)が異常値になった場合の補完的な尺度としても有効である。 なお、一株当たり純資産(BPS)は純資産(株主資本)を発行済株式数で割って求める。以前は「自社株を含めた発行済株式数」で計算していたが、「自社株を除く発行済株式数」で計算する方法が主流になりつつある。企業の株主還元策として自社株を買い消却する動きが拡大しており、より実態に近い投資指標にするための措置である。