金先物相場の上昇が続いている。新型コロナウイルスを受けた各国中銀による積極的かつ、未曽有の金融緩和であふれたマネーが流入し、価格を押し上げている。個人投資家の全面参戦も金価格の一段の高騰につながる可能性がある。
■金の投資妙味
ニューヨーク金先物は8月5日、取引の中心である12月物が1トロイオンス2070ドルを付け、中心限月として8日連続で過去最高値を更新した。4日に期近の8月物を含む全ての限月が節目の2000ドルを超え、上昇に一段の弾みが付いた。9年ぶりに高値を更新した7月27日から8営業日で6%上昇した。
ドルの先安観が代替資産とされる金の買いを誘う。景況感格差などから欧州通貨に対するドル売りが続き、米インターコンチネンタル取引所(ICE)が算出するドル指数は5日、2018年5月以来の水準に低下した。米名目金利から期待インフレ率を差し引いた実質金利も10年物が5日にマイナス1.06%を付けるなど過去最低を更新し続けており、金利の付かない金の投資妙味は増すばかりだ。
■「ロビンフッダー」も
市場では「短期筋も長期の投資家もこぞって金を買っている」(BCAリサーチ)との声があった。金の上場投資信託(ETF)で最大の「SPDR(スパイダー)ゴールド・シェア」の4日時点の運用資産残高は約800億ドル。27日の取引終了時から4%増え、ETFが裏付けとして保有する金現物の量も拡大した。投資アプリのロビンフッドを利用する個人投資家、通称「ロビンフッダー」の金保有者数は7月27日時点の3万683人から、5日に3万9000人超まで増えた。
5日の米株式市場ではダウ工業株30種平均が4日続伸し、ナスダック総合株価指数も連日で過去最高値を更新した。通常、株高は投資家のリスク回避姿勢を後退させるが、金への資金流入が途切れる気配はない。ドル高や実質金利の上昇が見込めないことなどから「短期的には調整もありうるが、金選好に変わりはない」(BCAリサーチ)との市場参加者が多いからだ。足元は金だけでなく銀の上昇も目立っている。
■「デジタルゴールド」も勢いづく
ビットコインなど「デジタルゴールド」と呼ばれる仮想通貨の上昇も勢いづいている。ビットコインは7月下旬に1ビットコイン=1万ドルの大台を回復した後、1万1600ドル前後と約1年ぶりの高値圏に上昇している。4日に決済サービスのスクエアが発表した2020年4~6月期決算では顧客のビットコイン取引の手数料収入が売上高拡大に大きく寄与したことが分かった。個人の売買が活発化している様子が透けてみえる。
トランプ米政権と米与野党指導部は追加の景気対策を巡る協議を続けるが、家計への最大1200ドルの現金給付については前週末の時点で早々に合意していたと伝わっている。第1弾の給付では、ロビンフッダーを通じて資金の一部が株式市場に流入し、株高を後押ししたとも言われている。給付金が消費やその他の支出に回らず、金市場に流入するようなら、金はさらに高みを目指す可能性がある。(NQNニューヨーク 横内理恵)
<金融用語>
ETFとは
Exchange Traded Fundsの略称で和訳は上場投資信託。特定の株価指数、債券指数、商品価格(商品指数を含む)などに連動することを目的に運用される投資信託で、通常の株式と同じように金融商品取引所において、いつでも売買が可能である。いわば、取引所に上場されたインデックスファンドである。 またETFは目標とする指数・指標に連動する投資成果を目指す投資信託であることから、いわゆるパッシブ運用をおこなうため、相対的に信託報酬などの運用コストが低いのが特徴である。加えて、個別銘柄で分散投資をおこなうのに比べると、ETFは少額で分散投資が可能である。