2本の成長の柱が成長力を高めそうだ。画像処理半導体(GPU)の米エヌビディアが8月19日に発表した2020年5月~7月期決算は売上高が過去最高となり、3四半期連続で増収増益だった。データセンター向けの売上高が四半期ベースで初めてゲーム向けを上回り、収益力に厚みがでてきた。
■大手クラウド事業者向けが好調
データセンター部門の売上高は2四半期連続で10億ドル(約1050億円)を超え、過去最高を記録した。アマゾン・ドット・コムなど「ハイパースケーラー」と呼ばれる大手クラウド事業者向けの売り上げが好調だった。5月から販売する人工知能(AI)に特化した回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルの新型GPU「A100」も伸び、データセンター向けの売上高は四半期ベースで初めてゲームを上回った。
5~7月期決算からは4月に買収を完了したイスラエルの半導体設計会社メラノックステクノロジーズの収益を含む。同期間の売上高の14%、データセンター向け売り上げでは30%超を占めたようだ。
■新型ゲーム機向けの需要増
ゲーム向けも高い伸びが続いた。新型コロナのまん延で自宅で過ごす時間が増え、エヌビディアのGPUを搭載したゲーム用パソコンを購入する人が増えた。9月に発売が見込まれるゲーム向けの7ナノGPUが、後半の収益を押し上げるとの期待は高い。オッペンハイマーのアナリストは「データセンター向けの需要は年後半に頭打ちとなるが、ゲーム向け7ナノGPUの強さで収益の伸びが続く」とみる。
バンク・オブ・アメリカによると、ソニーが年末に発売予定の新ゲーム機「プレイステーション5」、米マイクロソフトが発売予定の「Xbox シリーズX」など、新型ゲーム機向けの需要が年後半の業績を押し上げそうだ。新型ゲーム機ではより高性能なGPUが採用されるため、大規模な買い替え需要が見込める。
■決算発表と市場予想
QUICK・ファクトセットのまとめでは8~10月期のゲーム向けの売り上げは17億100万ドル、11月~21年1月期は16億5100万ドルと5~7月期の実績並みの高水準が続く見通しだ。エヌビディアのジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は年度後半は「今までで最高のゲームシーズンになる」と鼻息が荒い。
一方、売り上げ規模は小さいものの映像化や、投資家の注目度が高い自動車向け事業は大幅な減収だった。新型コロナによる「企業需要の低迷と世界中で多くのオフィスが閉鎖されたことによる打撃を受けた」とコレット・クレス最高財務責任者(CFO)は説明する。2本柱の好調ぶりに隠れているが、第3の収益源が育つには時間がかかるともとれる。
【決算の主な項目】
項目 | 20年5~7月期 | 市場予想 |
売上高 | 38億6600万ドル(50%増) | 36億5400万ドル |
純利益 | 6億2200万ドル(13%増) | 6億6200万ドル |
1株利益 | 2.18ドル | 1.43ドル |
(注)カッコ内は前年同期比。
【部門別売上高】
部門 | 20年5~7月期 | 市場予想 |
データセンター | 17億5200万ドル(2.7倍) | 17億1000万ドル |
ゲーム | 16億5400万ドル(26%) | 14億1000万ドル |
映像化 | 2億300万ドル(▲30%) | 3億 100万ドル |
自動車 | 1億1100万ドル(▲47%) | 9900万ドル |
OEMその他 | 1億4600万ドル(32%) | 1億3700万ドル |
(注)カッコ内は前年同期比増減率。▲は減。市場予想は18日時点でQUICK・ファクトセットまとめ。
8~10月期の売上高は44億ドル程度を見込む。前年同期との比較では5割増える。収益力が一段と強まるが、市場の期待はそれ以上だったようだ。発表直後の19日の時間外取引では株価は通常取引の終値から2%程度下落している。
【業績見通し】
項目 | 20年8~10月期 | 市場予想 |
売上高 | 43億1200万ドル~44億8800万ドル | 39億7300万ドル |
粗利益率 | 65.0~66.0% | 65.00% |
エヌビディアの株価は年初と比べて2倍になっており、17日には時価総額は初めて3000億ドル(31兆円)を超えた。決算発表と同時に株式分割を実施するとの思惑も浮上していたが、発表がなかったことで短期的な利益確定売りに押されている面もある。
とはいえ、年度後半の見通しは引き続き予想を上回る。利益確定の売り一巡後は、成長期待が高く相場上昇をけん引する「モメンタム株」の代表としての位置付けは変わりそうにない。(NQNニューヨーク 張間正義)
<金融用語>
モメンタム株とは
成長期待が高く、値動きに勢いがあるため短期間で急騰するなど、株式相場全体の基調を左右してしまう銘柄のこと。日本では「材料株」にあたる。 特定のキーワードやテーマなどを材料に投資家の人気が集中し、割高な水準まで買われることが多い。ネット関連やバイオ関連の銘柄に多く見られる。