通信計測機器の米キーサイト・テクノロジーズが8月20日に発表した2020年5~7月期決算は、コロナ禍での業績悪化が一時的だったことを示した。減収ながら売上高は市場予想を大幅に上回り、8~10月期は増収に転じる見通しだ。次世代通信規格「5G」向けの需要の強さとソフトウエア事業への移行で利益率は改善している。株式市場では成長期待が盛り返している。
■5G投資まだ伸びる
5~7月期の売上高は10億1100万ドルと前年同期比7%減ったが、市場予想(9億1500万ドル)は大幅に上回った。コロナ禍で生産や出荷が停止した2~4月期からは13%増えた。部門別では「通信ソリューションズ」が4%減ったが、同部門の7割を占める5Gとデータセンター向けは2%増えたという。「電子産業ソリューションズ」部門では自動車や産業機器向けの計測機器の落ち込みが続いたが、半導体企業による計測機器需要は2桁の伸びになったようだ。
市場参加者を驚かせたのは8~10月期には早くも増収に転じるという見通しだ。売上高は11億7000万~11億9000万ドルを見込み、下限でも市場予想(11億700万ドル)を上回る。前年同期比では4~6%増える。ロン・ネルセシアン最高経営責任者(CEO)はコロナ禍での減収が2四半期で終わる理由について「通信事業者による5G投資の強さが続いている」と説明した。
ネルセシアンCEOは3月のイベントで「5G開発は野球で言えばまだ3~4回だ」と指摘していた。例えば、広いエリアをカバーする低周波数帯「Sub6]から、都心部での大容量通信に向けた高周波数帯「ミリ波」へのネットワークの再構築は始まったばかり。通信事業者の投資は向こう数年は伸びるとみられ「マクロ経済の不透明感はあるが、5G普及による収益拡大の基調を維持できる」と自信を示した。
■ソフト事業の強化
もう1つのサプライズは5~7月期の売上高営業利益率が26.1%と2~4月期の19.4%から急上昇した点だ。販管費など経費削減が奏功しただけでなく、利益率が高いソフトウエア関連事業への移行も寄与した。足元でソフトウエア関連事業の売上高は全体の3割を占めており、19年10月期(19%)から伸びが続く。6月には、電子機器や自動車などのソフトウエアを自動的にテストするプラットフォームを手掛けるエッグプラントを買収し、ソフト事業の強化を進めている。
キーサイトの成長期待は足元で高まっており、ゴールドマン・サックスは8月12日付で投資判断を「中立」から「買い」に引き上げた。同社のマーク・ディレーニー氏は「ソフトウエア事業への移行でサブスクリプション(継続課金)収入が増え、安定した利益率拡大が続く」と指摘する。
※キーサイトの株価(20日通常取引まで)
決算発表を受け、キーサイト株は20日夕の時間外取引で急伸し、一時は同日終値を8%上回る111ドル台に上昇した。昨年11月に付けた上場来高値(110.00ドル)を上回る。3月下旬に77ドル台まで下落したが、業績回復を期待した買いが入っている。市場では「長期的な成長を見込めば、今の株価には割安感がある」(エドワード・ジョーンズ証券のデービッド・ヘーガー氏)と強気な見方が増えている。(NQNニューヨーク=古江敦子)