中国・深セン証券取引所が8月24日、取引ルールの緩和に踏み切った。新興企業向けの「創業板」市場の上場銘柄の制限値幅を上下20%と、これまでの2倍に拡大し、新規上場銘柄については上場後5日間の制限値幅を撤廃した。トランプ米政権が中国ハイテク企業への締め付けを強めるなか、中国は自国の株式市場のテコ入れを急ぐ。
■「米中ハイテク競争の重要な一部分」
24日、創業板には18銘柄が新規に上場した。その1つである自動車部品のカ倍億は一時128元と、公開価格(18.79元)の7倍近くに値上がりした。これまで上場初日は株価の上限が公開価格の44%だったため、創業板の投資家にとって3ケタの上昇率は極めて新鮮だ。
既上場では、さっそく消防警報システムを手がける峡西堅端天脳が20%上昇した。中国側で米中貿易協議を統括してきた劉鶴(リュウ・ハァ)副首相は「創業板が新興企業へのより良いサービスを提供するよう希望する」と賛辞を寄せた。
今回の改革は、上海の新興企業向け「科創板」と条件をそろえる形。制限値幅の拡大のほか、新規上場の手続きをそれまでの審査制から登録制に切り替え、簡素化した。上場基準も緩め、条件付きながら利益がまだ出ていない新興企業や、議決権の数の異なる種類株の発行企業、レッドチップ(香港に登記し香港市場に上場する中国本土企業株)などの上場も認めた。
中国の新興市場向け改革については「米中ハイテク競争の重要な一部分」(香港証券会社の交銀国際)と受け止められている。「制限値幅のようなゆがんだものがあっては株式市場としての効果が発揮できない」(同)からだ。中国当局は「米ナスダック市場に対抗できるハイテク市場を育てたい」(内藤証券上海代表処・首席代表の王萍氏)との読みもある。
■三つどもえの闘い
ただ、中国国内で市場間競争も激しさを増しそうだ。科創板と上場条件がほぼ同じになったことで、逆に「創業板は科創板に比べ見劣りするとの見方が出てきそう」(中国銀河国際証券の羅尚沛・業務発展董事)との声が浮上している。
例えば、科創板には中国の半導体受託生産大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)が上場している。一方、創業板では車載電池の寧徳時代新能源科技(CATL)が時価総額も大きく、幅をきかせている。ただ、SMICは香港市場にも重複上場しており、同じ主要銘柄とはいっても「科創板の方が大手や政府支援のある企業が多く上場し、安定感が強い」(中国銀河国際証券の羅氏)と受け止められている。
将来的には、上海と深センの両市場でアリババ集団、騰訊控股(テンセント)といった香港上場の有力企業の誘致競争も想定される。米国による対中圧力強化で本国回帰志向を強める米上場の中国企業の争奪戦は、香港市場を含め三つどもえの闘いになる。中国市場は海外の動向も見極めながら、さらなる改革を迫られることになりそうだ。(NQN香港 桶本典子)
<金融用語>
値幅制限とは
株価の急速な変動は、投資家に不測の損害を与える可能性があるので、これを防ぐために1日の呼び値が動く範囲(値幅)は前日の終値(最終気配値段を含む)から一定の範囲に制限されている。 制限値幅は価格水準によって異なる。その制限値幅の上限まで株価が上がるとストップ高、下限まで下がるとストップ安という。