新型コロナウイルスの流行による経済・金融危機から回復途上の米国で、経済統計や指標の明暗が分かれている。住宅セクターが好調な一方、雇用や消費はなお不透明感が強い。8月25日の米債券市場では長期金利の指標である10年債利回りは前日比0.03%高い(価格は安い)0.68%と、このところの取引レンジ内で終えた。米景気の実体が捉えにくいなか、金利の適正水準を模索する展開は続きそうだ。
■米住宅市場は回復
明るさが際立つのが住宅部門だ。25日の発表の7月の新築住宅販売件数は前月比13.9%増と3カ月連続で2ケタ台の伸びが続き、年率換算では90万1000戸と市場予想(78万7000戸)を大幅に上回った。2006年12月以来の高い水準となる。前週発表の7月の中古住宅販売件数も前月比24.7%増と過去最高の伸び率で、年率換算は586万戸と同じく06年以来の高水準だった。
住宅着工件数も強い回復基調が続き、全米住宅建設業協会(NAHB)が発表した8月の住宅市場指数は過去最高水準だ。コロナを受けた住宅ローン金利の低下や都市部から郊外や田舎への移転する人が増えていることが強さの背景にあり「目先は住宅市場の回復を阻むものはない」(パンセオン・マクロエコノミクス)と強気の見方が出ている。
■雇用や消費は不透明
対照的に消費者心理は陰りが目立つ。25日発表の8月の米消費者信頼感指数は7月の91.7から84.8へと2カ月連続で低下し、新型コロナを受けて全米で急激に経済活動が停滞した4月の水準も下回った。「新型コロナが依然として広範囲で流行していることが消費者信頼感を押し下げた」(オックスフォード・エコノミクス)という。
雇用の戻りも鈍い。25日にはアメリカン航空が10月1日付で1万9000人の従業員を一時帰休させる方針を明らかにした。米政府の支援が9月末に期限を迎えるのに伴う措置で、早期退職などを含め、コロナ前に比べて4万人超を減らすという。米国の経済活動が早期に以前の水準に戻らないのはほぼ確実といえ、失業もさらに増える可能性がある。
米国全体では依然、1500万人以上が失業している。米消費の落ち込みを回避するためにも失業給付の上乗せなど追加対策による景気下支えが必要不可欠だが、与野党協議は進まないまま。大統領令による失業給付の増額措置も州政府の方針次第で金額が減ったり、給付開始に時間がかかったりしている。
アクション・エコノミクスのキム・ルパート氏は「8月を境に消費者信頼感は底入れし、7~9月期は米景気の回復基調が続く」とみるが、「コロナワクチン開発の進展や普及などを含め、不透明な要因が多く、エコノミストの見通しも強弱まちまち」だと指摘する。戻り歩調がおぼつかない米経済の現状や先行きをどうみるべきなのか。先行きの指針を求める債券市場関係者の関心は、27日のカンザスシティー連銀主催の経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)でのパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の講演に集まっている。(NQNニューヨーク 横内理恵)
<金融用語>
消費者信頼感指数とは
消費者の観点から米国経済の健全性を図る指標。米国の民間調査会社コンファレンス・ボードが毎月、現在の景気・雇用情勢や6ヵ月後の景気・雇用情勢・家計所得の見通しについて5000世帯を対象にアンケート調査し、1985年を100として指数化したもの。個人消費の先行指標とされ、消費者心理を反映した指数。同指数に先行して発表され、同じく米国の消費者マインドを指数化した指標として、ミシガン大学消費者態度指数がある。