日経平均株価が2万3000円台でもみあいをつづける中、新興株市場の売買が活況を呈している。東証マザーズ指数の売買代金は、9月1日まで活況の目安とされる2000億円を13営業日連続で超えた。対照的に、東証一部の売買代金は同期間平均で2兆円を下回って振るわない。他方、マザーズ指数とその先物のかい離は投資家の利益確定売りに備えた動きをすすめる様子を示している。9月・10月と新規株式銘柄(IPO)が続くため、指数を下押しする要因とさらに警戒を強めるかもしれない。
■新興株市場と東証1部の温度差
東証マザーズ市場は売買代金が13営業日連続で2000億円を上回るなど活況を呈している。指数は9月1日に年初来高値を更新した。一方で同期間の東証一部の売買代金は平均で約1.9兆円で活況の目安とされる2兆円を下回っている。こうした新興株市場と東証1部の温度差の背景には、「東証一部の大型株が値動きが悪くなっていることから値動きの軽さや、世界でグロース株が優位な展開が続く中で成長期待のある新興市場に資金が流入している(国内証券)」ことが挙げられるという。
■利益確定売りへの備え
利益確定売りに備えた動きも見て取れる。8月31日の東証マザーズ指数の終値は1121.64に対し、マザーズ指数先物は1113で終えた。東証マザーズ指数採用銘柄は空売りできない銘柄が多いため、売りバスケットを組めず、マザーズ先物に投資家が求める用途は、ヘッジ売りがメインとなる。一方、買いヘッジする場合は、指数ウェイトの高い銘柄で買いバスケットを組むことが可能。8月31日の建玉残高は2万4628枚と、高水準だ。「世界で低金利環境が継続することが見込まれ米国では実質金利の上昇も限られる中で、引き続きグロース株が優位な展開が見込まれる。ただ、足元で年初来高値を更新した新興株には高値警戒感から、一時的な利益確定売りに備えたヘッジの動きとも見て取れる」(国内投信の運用担当者)との指摘も聞かれる。
■IPOに備えての利益確定売り
9月に相次ぐIPO(新規株式公開)への警戒の表れか。足元の売買を主導するのは7~8月に上場した半導体工場向けシステム開発のティアンドエス(4055)、ソフトウェア開発のサンアスタリスク(4053)、バイオ医薬品のモダリス(4883)で8月31日のマザーズ全体のおよそ2割を占めるが、9月には9社の上場が予定されており、指数のを押し下げに働く恐れがあるという。「資金力に限られた個人投資家が投資資金の確保のために、利益の出ている銘柄を売り、指数に採用されていないIPO銘柄に資金を振り向ける可能性がある」(国内運用会社ファンドマネージャー)との指摘のほか、「10月6日となるようだが、キオクシアのIPOに備えて利益確定の動きが強まるかもしれない。益出しの対象はここのところ好調が続く新興株が対象ではないか」(国内証券アナリスト)との声が聞かれた。

(QUICK Market Eyes 川口究)
<金融用語>
IPOとは
Initial Public Offeringの略。一般的には、(新規)株式公開とも言われる。少数株主に限定されている未上場会社の株式を証券取引所(株式市場)に上場し、株主数を拡大させて、株式市場での売買を可能にする。 新たに株券を発行して株式市場から資金を調達する「公募増資」や、以前から株主に保有されていた株式を市場に放出する「売出し」がある。 上場した企業は株式市場からの資金調達が可能になり、会社の知名度の向上によって、優秀な人材の確保が可能になるなどのメリットがある。一方で、投資家保護の観点から定期的な企業情報の開示(ディスクロージャー)が義務付けられる。