著名投資家ウォーレン・バフェット氏が率いる米投資会社バークシャー・ハザウェイが8月31日、日本の5大商社株の取得を発表した。市場の一部では、5大商社の有価証券報告書の大株主情報に記載された資産管理銀行(カストディアン)の裏にバフェット氏がいるのではないか、との思惑が浮上している。
■BNYM保有の5大商社株
5大商社の2019年9月末の四半期報告書と20年3月期の有価証券報告書の大株主の情報をみると、「ビーエヌワイエム ノーウエスト ウェールズ フアーゴ オムニバス(BNYM RE NORWEST/WELLS FARGO OMNIBUS)」というカストディアンの名前がある。この大株主は20年3月末時点で5大商社株をそれぞれ4%超保有している。
NYM RE NORWEST/WELLS FARGO OMNIBUSの保有割合
銘柄名(コード) | 19年9月末 | 20年3月末 |
伊藤忠(8001) | ―― | 6020万3000株(4.03%) |
丸紅(8002) | ―― | 6952万9000株(4.01%) |
三井物(8031) | 2218万7000株(1.27%) | 7269万8000株(4.25%) |
住友商(8053) | ―― | 5529万3000株(4.43%) |
三菱商(8058) | ―― | 7149万5000株(4.80%) |
※かっこ内は発行済み株式数に対する保有割合。各社の有価証券報告書、四半期報告書より抜粋。
バークシャー子会社が提出した大量保有報告
銘柄名(コード) | 8月24日時点 |
伊藤忠(8001) | 7950万9400株(5.02%) |
丸紅(8002) | 8787万7700株(5.06%) |
三井物(8031) | 8645万3900株(5.03%) |
住友商(8053) | 6312万1100株(5.04%) |
三菱商(8058) | 7488万7500株(5.04%) |
※かっこ内は保有割合。バークシャー子会社、ナショナル・インデムニティー・カンパニーが8月31日に関東財務局に提出した大量保有報告書より抜粋。
大株主情報に記載のある信託銀行や資産管理銀行の裏に、実際どのような投資家がいるかは不明だ。ベテランの著名投資家「たけぞう」こと上利武嗣氏に話を聞くと、真相は分からないと前置きしながら「投資規模や期間からみて、この資産管理銀行の裏側にはバークシャーの保有分があるのではないか」と推測していた。
バークシャーの発表資料によると、保有を明らかにした5大商社株は過去12カ月にわたって定期的に買い入れたとしている。1年という長いようで短い期間にこれだけの商社株を買える投資家はめったにいないだろう。
※5大商社の株価と日経平均株価(2019年末を100として指数化)
■日本のバリュー株か
東海東京調査センターの鈴木誠一チーフエクイティマーケットアナリストが5大商社の株式を保有するカストディアンのBNYMについてそれ以外の銘柄の大株主状況に記載がないか調査したところ、1つだけ見つかった。メガバンク大手の三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)だ。
20年3月末時点でBNYMは三菱UFJ株を2億7108万5100株、発行済み株数の2.10%を保有していた。足元の時価総額で1200億円程度となる計算だ。19年9月末時点の四半期報告書の大株状況には記載がないため、半年間で三菱UFJ株を取得した投資家がいるのではないかとの臆測を呼ぶ。
東海東京の鈴木氏は「仮にバークシャーが三菱UFJ株を買っていたとなると、日本のマーケットで評価が低く見過ごされがちなバリュー株を買っている可能性を示唆する」と指摘する。
もちろん、バークシャーが三菱UFJを買っているか、BNYMの裏にバフェット氏の保有分があるのかはやぶの中だ。バリュー株投資の神様が商社株の次に手を差し伸べたのはどの銘柄か。市場に渦巻く思惑や臆測は、そうした銘柄探しの機運の盛り上がりを示しているようだ。〔日経QUICKニュース(NQN)中山桂一〕
<金融用語>
カストディアンとは
英語表記はCustodian。投資家のために証券を保護預りする保管機関のこと。 例えば、日本で外国証券を購入した場合に、その証券そのものを日本に持ってくるわけではなく、現地の保管機関に預かってもらう。 カストディアンの役割は、証券の保管業務だけではなく、元利金・配当金の代理受領、預り運用資産の受渡し決済、運用成績の管理など広範囲に及ぶ。 欧州の主要な機関として、クリアストリームとユーロクリアがある。