中国本土の株式市場で、9月に入り海外勢の資金流出が目立ってきている。香港市場との証券相互取引を通じた海外投資家による中国本土株の売買(北行き)は、9月8日までの6営業日のうち5日が売り越しとなった。海外勢による取引は、米中関係や中国の景況感などに敏感に反応する資金フローとして注目されている。先週末以降の米国株急落のように、堅調に推移してきた上海・深セン株も調整局面入りする兆しなのか。中国の投資家も目を凝らしている。
■海外勢が5日売り越し
証券相互取引を通じた投資資金は、中国語でスマートマネー(賢いお金)を意味する「聡明銭」と呼ばれる。「中国本土株の外国人投資家の持ち高比率は4.5%程度にとどまるが、保有株は業績が好調で時価総額が大きい銘柄が多い」(藍沢証券上海代表処の柳林・首席代表)とされ、相場の方向性に一定の影響力を持つ。
その北行き(上海・深セン市場)資金が9月は7日まで5営業日連続で売り越しとなり、同日までの累計売越額は200億元(約3000億円)近くに達した。8日はいったん買い越しに転じ売越額は133億元に減ったものの、海外勢の動きが示すように9月に入った後の上海総合指数は8日までに2.3%下落した。9日も一時、前日比2.3%安まで下落するなど軟調な展開が続いている。
■従来とは違う売り越し
海外勢の売りについては「米中の緊張関係の高まりや、米国株式市場でのハイテク株安を受けて海外投資家による利益確定の動きが広がった」(香港の耀才証券国際の黄澤航アナリスト)との見方が多い。中国では経済指標の改善基調が強まってきているため、金融緩和拡大への期待が後退してきていることも背景にある。
香港との中国本土の証券相互取引は上海市場とは2014年、深センとは16年に始まった。以降、取引枠が段階的に拡大されてきたとはいえ、中国本土株の月間売越額が200億元を超えたのはわずか3回だ。
最大だったのが今年の3月(678億元)で、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が直撃した。19年5月(536億元)は、米中貿易摩擦の激化が影響した。15年7月(314億元)は1~6月にかけて6割近く上げていた上海総合指数が下げに転じた時期にあたる。翌月には中国当局による人民元の切り下げ(人民元ショック)が起きた。
今回9月に入ってからの売り越しは、投資家が明確な理由として理解しやすい材料があった従来の局面とは様相がやや異なる。上海総合指数はコロナ禍からの回復が世界の主要株価指数のなかでも先行しており、3月末から9月8日までの上昇率は21%に達する。米国ではナスダック総合株価指数が前週に過去最高値を更新した後に、ハイテク株などに過熱感を警戒した売りが膨らんでいる。中国株も15年前半のような急騰局面ではないにしろ、海外勢がいったん利益確定目的の売りを出しているとみられる。
■買い越しに転じる可能性
海外勢の売り越しは一時的な動きにとどまるのか。本格的な下落局面入りというよりも、一時的な調整と捉える市場参加者が多い。香港地場証券の大唐金融の上海代表処は「バリュエーションが低い銘柄に資金を振り向ける動きが増えているとみられる。相場全体の方向性は乏しく、上海総合指数は当分3200~3400のボックス圏で推移しそうだ」とみる。今後、買い越しが続けば、月間で海外勢が買い越しに転じる可能性もある。
ただ海外投資家が敏感に反応する米中関係を巡っては、11月に米大統領選という一大イベントを控える。「不確定要因が多く、積極的に買いを入れる動きは限られる」(同)。「聡明銭」の動きは市場急変の前兆なのか。これまで以上に関心が高まりそうだ。(NQN香港 川上宗馬、林千夏)
<金融用語>
バリュエーションとは
企業の利益・資産などの企業価値評価のこと。 本来の企業価値と現在の株価を比較して、株価が相対的に割安か割高かを判断する具体的な指標としては、株価純資産倍率(PBR)や株価収益率(PER)、配当利回りなどがある。