商品市場で世界の原油需要への懸念が広がっている。9月9日のニューヨーク・マーカンタイル取引所(NYMEX)で、指標となるWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)期近の10月物は前日比3%高の1バレル38ドル台で取引を終えた。3カ月ぶり安値をつけた前日からは大きく上昇したものの、心理的な節目である40ドルを下回っている。欧州で再び新型コロナウイルスの新規感染者数が増え、航空燃料などの需要の回復を鈍らせるとの見方が背景にある。
■航空燃料の需要減
「原油の現物需要は弱いままだ」。ネッド・デービス・リサーチのエネルギーストラテジスト、ウォーレン・パイズ氏は8日付リポートでこう指摘し、短期的に一段の価格下落の可能性があることから原油の投資判断を「中立」から「売り」に引き下げた。
パイズ氏が需要の弱さの象徴として指摘するのはジェット燃料などに使う「中間留分」の在庫の多さだ。同氏によると米国の中間留分の在庫は過去最高水準に近づいているという。特に新型コロナのまん延を防ぐために各国が実質的に渡航を制限しており、航空機向け燃料の需要が落ち込んでいることが影響している。
欧州ではイタリアやスペインで新規感染者数が再び増加傾向にある。英国は渡航者への自主隔離対象国の変更を頻繁に行っており、英国の格安航空イージージェットは8日、7~9月期の旅客輸送計画を再び縮小すると発表した。米国でもユナイテッド航空は7~9月期の稼働が前年同期と比べて70%減になると、従来見通しを下方修正した。米国ではいくつかの航空会社が10月以降、米国内の小規模都市への航空便を減らす計画も打ち出しており「航空燃料需要の持ち直しは、安全で効果的な新型コロナのワクチンや治療薬ができてからだ」(バンク・オブ・アメリカ)との見方が根強い。
■「3年程度かかる」
米国の原油消費を支える自動車向けガソリン需要も落ち込んだままだ。米エネルギー情報局(EIA)によると8月28日時点のガソリン需要は前年同時期に比べて10%低い水準にとどまる。自動車での移動は新型コロナまん延直後に比べると持ち直しつつあるものの、在宅勤務の広がりがガソリン需要の重荷になっている。
バンカメは4日付リポートで、原油需要が新型コロナまん延前の水準に戻るのは「3年程度かかる」と指摘した。EIAは9日発表した9月の「短期エネルギー見通し」で、21年の世界の原油需要を8月時点から下方修正した。
米主要株価指数が3月の安値から急上昇するなど金融市場の持ち直しが急速だった一方で、実体経済の回復ペースは緩やかなものにとどまっている。原油先物相場の上値の重さは、これまで目立ってきた金融市場と実体経済との乖離(かいり)の修正を示唆しているのかもしれない。(NQNニューヨーク 岩本貴子)
<金融用語>
WTIとは
West Texas Intermediateの略称。米国の代表的な原油。テキサス州西部を中心とした地域で産出され、硫黄分が少なくガソリンを多く抽出できる高品質な原油を指す。 ニューヨークマーカンタイル取引所において、その先物取引が行われており、原油価格の代表的な指標となっている。この先物取引を指すこともある。