足もとでは景況感が着実に改善しつつある。3月の安値以降、期待先行で上昇してきた株式市場だが、実態面も伴いつつある状況だ。こうなってくると期待したくなるのが出遅れ株が買われることによる相場の底上げだ。2019年も年末にかけて同様の展開が見られた。一方、企業自身が判断する自社の株価水準については「安い」との回答数が減ってきた。新型コロナの不確実性も残る中、19年同様のラリー実現には超えるべきハードルが多そうだ。
■底入れ基調が鮮明
QUICKが実施した9月の「QUICK短期経済観測調査(短観)」は、製造業の業況判断指数(DI)はマイナス26と、前月調査から4ポイント改善した。全産業もマイナス10と3ポイント改善した。製造業、全産業共に3カ月連続の改善となった。
6月の日銀短観はマイナス34と、世界金融危機時の2009年6月以来、11年ぶりの水準にまで落ち込んでいた。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済活動の停滞が影響した。足もとでは徐々に経済活動が再開している。QUICK短観が順調に上向いていることから、日銀が10月1日に発表する9月の短観も底入れ基調が鮮明となりそうだ。
■バリュー株優位の展開
3月の安値以降、株式市場はグロース株中心に反発した。特にナスダック総合株価指数は3月23日の安値から9月2日の高値まで80%超の大幅高となった。コロナ前の高値である2月19日の高値と比較しても20%超上昇した。
しかし、足もとではナスダック総合指数が高値から12日終値までに8%超下落するなど調整色を強めている。それでも、ダウ工業株30種平均の同期間の下落率は4%安にとどまるなど、これまで出遅れていた銘柄の下げ渋りが顕著となっている。
QUICKラボのイントラデイファクターリターン分析を用い日中のファクターリターンを算出したところ、4日から7日間連続でバリュー株優位の展開となっていることが確認できた。バリュー株が7日連続で日中優位となるのは8月3~12日の7日連続以来となる。
■2019年も同様の展開が
下のグラフは2019年以降のPBR(株価純資産倍率)ファクターの累積日中リターンを示している。日中のPBRファクターリターンは、TOPIX500をユニバースに最も高いPBR銘柄群を第1分位、最も低いPBR群を第5分位とし、第1分位の日中リターンから第5分位の日中リターンを減じて算出する。数値が高いほど、日中がグロース優位であったことを表している。
19年9月以降も年末にかけて、PBRファクターの日中リターン累積値は減少に転じていた。この間は日中の取引時間帯においてバリュー株優位であったことが確認できている。
出遅れていたバリュー株へのローテーションが進むことで、相場全体が押し上げられる展開を期待する声も多い。一方、19年9月とは異なった環境であることから、昨年同様の展開が実現しない可能性もありそうだ。
■自社株判断DIは低下
QUICK短観で調査する自社株判断DI(自社の株価水準について「安い」との回答数から「高い」との回答数を減じて算出する)は前回調査比2ポイント減の52まで低下した。自社株判断DIは5カ月連続で低下している。この水準は前年同月の69と比べて17ポイントも低い。
米中対立の進展期待といった19年末のラリーと異なり、足もとの状況は企業を取り巻く環境の不確実性が依然として高い状況ともいえる。自社株判断DIが低下していると言う事は、株式市場の期待とは対照的に企業の業績改善スピードがより緩やかになるとも捉えられよう。景況感の改善とバリュー株のリバーサルといった相場底上げは、思った以上に進まない可能性も想定されそうだ。(QUICK Market Eyes 大野弘貴)
<金融用語>
QUICK短観とは
正式名称はQUICK短期経済観測調査。QUICKが調査・発表している国内上場企業の景況感を示す経済指標。日本銀行が国内企業を対象に景況感を調査する「全国企業短期経済観測調査(日銀短観)」は年4回の公表だが、QUICK短観は毎月公表している。日銀短観の2週間ほど前に最新の調査結果を公表していることから、日銀短観の先行指標として利用されている。足元および先行きの業況判断について「良い」、「さほどよくない」、「悪い」の三択方式で質問し、調査結果を「DI」(Diffusion Index、ディフュージョン・インデックス)という指数にして製造業や非製造業などの分類ごとに発表する。例えば、足元の業況判断DIは3ヵ月前と比べて「良い」と回答した企業の割合から、「悪い」と回答した割合を差し引いて算出する。 景況感以外にも、自社の株価水準や円相場の水準、将来の物価見通しなどについても調査している。