9月上旬、米カリフォルニア州ロサンゼルスで同地の観測史上最高となる49.4℃(華氏121度)を記録したとの報道があった。数年前までは50℃に迫る気温というと実感が湧かなかったが、現在では50℃に迫る気温を観測する地点が日本にあったとしても驚かないのではないか。地球温暖化の現象は、地球環境と人間社会に着実に影響を及ぼしている。
今回はアラベスクS-Rayの「気温スコア」および排出量データを使用して、世界の企業の気温スコアをチェックしてみたい。
アラベスクS-Rayの気温スコアは、国際エネルギー機関(IEA)の持続可能開発シナリオを参考に、産業革命前に比べて気温上昇を抑制するベンチマーク(1.5℃、2.0℃、2.7℃)を設定し、各企業の排出量(スコープ1&2)と比べた上で同スコアを算出する。
同スコアには1.5℃、2.0℃、2.7℃、2.7℃<、3.0℃の5つの段階が設けられている。1.5℃スコアは、企業の排出量の水準が1.5℃のベンチマークを下回り、気温上昇を1.5℃未満に抑制することに貢献していることを示している。同様に2.0℃スコアは2.0℃のベンチマークを下回り、気温上昇が2.0℃未満に抑制することに貢献。続いて2.7℃スコアは2.7℃のベンチマークを下回り、2.7℃未満の上昇に貢献を示している。一方、2.7℃<スコアは企業の排出量の水準では気温上昇は2.7℃を超えることに寄与してしまうことを示している。3.0℃スコアは、排出量に関する開示が不足している企業に付与される。そして、気温スコアを短期(2030年)と長期(2050年)の2つの期間で算出している。
評価対象としてさらに3つの指標を見る。1つは過去3年の排出量の水準が減少傾向を示しているのかを判断する指標だ。2つ目は、SBTi(サイエンス・ベースド・ターゲット・イニシアティブ=国連グローバル・コンパクト、WWF、CDP、世界資源研究所の共同イニシアティブ。企業に対し、気候変動による世界の平均気温の上昇を、産業革命前と比べ、1.5℃に抑えるという目標に向けて、科学的知見と整合した削減目標を設定することを推進)の承認を取得しているか。そして3つ目がスコープ3の開示をしているかである。
■カーボンファイター、日本ではブラザーとリコーが高い評価
短期と長期のそれぞれの気温スコア、排出量の削減傾向(トレンド)、SBTi(ターゲット)、スコープ3の5つの指標から、アラベスクS-Rayの気温スコアの対象となっている世界の約3000社の企業を分析してみた。そして、これら5つの指標において、すべての項目で高い評価となったのが下記の8企業である。
高評価を得た日米欧のこれら8社は、世界的にみても温室効果ガスの排出量削減に対して非常に積極的に取り組んできたということができるであろう。日本ではブラザー工業(6448)とリコー(7752)が入った。温室効果ガスの排出削減に果敢に挑む「カーボンファイター企業」として、両社にはこれからも世界をリードしてもらいたい。
■電通、野村総研もカーボンファイターの有力候補に
カーボンファイターとして高評価となった上記8社はIEAの産業分類ではいずれも「インダストリー」に属している。一方、アラベスクS-Rayで気温スコアを担当するレベッカ・トーマス博士によると、現在、産業分類の「パワー」と「その他」に属する業種において、2050年までに温室効果ガスの純排出量をマイナスにしようとする動きが出てきているという。
そのため、現在、長期の気温スコアが2℃の企業についてもカーボンファイターの有力候補と考えられるとのことだ。長期の気温スコアを2℃にして分析すると、次の9社が有力候補企業となる。
・ソプラ・ステリア(フランス、コンサルティング)
・ザランド(ドイツ、Eコマース)
・電通(4324)
・野村総合研究所(4307)
・CDL(シンガポール、不動産)
・テレフォニカ(スペイン、通信)
・H&M(スウェーデン、小売り)
・マークス&スペンサー(英国、小売り)
・ノートンライフロック(米国、ソフトウエア)
ここにも電通と野村総合研究所の日本企業2社が入っている。これら9社には長期(2050年)のシナリオでも1.5℃未満になるような排出量削減の取り組みを進めてもらいたい。(アラベスクS-Ray社日本支店代表 雨宮寛)
雨宮 寛(あめみや・ひろし)
アラベスクS-Ray社日本支店代表。アラベスク・グループの日本事業の責任者。アラベスク以前は外資系金融機関で運用商品の開発に従事。CFA協会認定証券アナリスト。一般社団法人日本民間公益活動連携機構アドバイザー、明治大学公共政策大学院兼任講師。NPO法人ハンズオン東京副代表理事。ハーバード大学ケネディ行政大学院(MPA)、コロンビア大学経営大学院(MBA)。