9月28日のニューヨーク債券市場で米長期金利の指標である10年物国債利回りは前週末と同じ0.65%で終えた。株式市場ではダウ工業株30種平均の上げ幅が一時500ドルを超えたが、長期金利の反応は鈍かった。銀行などの「キャッシュ潰し」と相次ぐ米経済成長率見通しの下方修正が金利上昇を抑えている。
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■「キャッシュ潰し」
長期金利が0.6%台で低位安定している背景の一つに、低すぎる利回りでも銀行などが仕方なく米国債を購入するキャッシュ潰しの活発化がある。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は先週、預金急増と貸し付けの減少で手元資金が急増し「銀行が米国債の保有を劇的に増やしている」と報じた。
米連邦準備理事会(FRB)が21日発表した2020年4~6月期の資金循環統計によると、6月末時点の米個人の現預金の残高は前の四半期から1兆1000億ドル増の13兆ドルと過去最高を記録した。その結果、預金残高と貸出残高の差である「預貸ギャップ」が過去最大の水準となり、4~6月期に銀行の米国債と社債の購入が2500億ドル以上増加したという。政府の失業給付の上乗せなどで収入(預金)が増加した一方、景気見通しの悪化から銀行の貸し付けが大きく減少した結果だ。
低くてもとりあえずプラスの利回りであれば、キャッシュ潰しを目的に国債を大量に買い入れる足元の米銀の動きと、こうした投資行動を長年続けてきた邦銀の動きを重ね合わせる市場参加者もいる。
■経済見通しの悪化
金利上昇を抑制するもう一つの要因は経済見通しの悪化だ。米連邦最高裁判所の次期判事の指名を巡って、米議会は与野党の対立が深刻化。さらに、29日の米大統領候補討論会を目前にトランプ米大統領に納税逃れのための不適切取引の疑惑が浮上した。当初は7月末の成立を目指した大型の追加経済対策は規模を縮小し、11月の米大統領選以降の成立との見方で固まりつつある。
米民主党のペロシ下院議長は28日、ムニューシン米財務長官と27日に追加経済対策について協議したと述べたと伝わった。これまで同様の動きがあっても交渉は進展しなかったことから、市場は成立に懐疑的だ。
実際、先週以降、JPモルガン・チェースやゴールドマン・サックスなどは経済対策の成立の遅れを理由に相次いで20年10~12月期以降の成長率見通しを下方修正した。JPモルガン・チェースのエコノミストのブルース・カスマン氏は26日、10~12月期の成長率見通しを2.5%増(従来は3.5%増)、21年1~3月期は2%増(同2.5%増)とそれぞれ引き下げた。
米商品先物取引委員会(CFTC)が25日に発表した22日時点のデータによると、投機筋による米10年物国債先物の持ち高は8万2180枚の買い越しと前の週(1枚4777枚)より大きく増加した。11月の米大統領選にかけては金融市場の不透明感が増し「金利のゆるやかな低下局面になる」(JPモルガン・チェース)との見方が多い。リスクオンよりもリスクオフの材料に反応が大きくなりがちな債券市場では、8月に付けた直近の最低水準である0.5%への低下が11月にもありそうな雰囲気だ。(NQNニューヨーク 張間正義)