【QUICK Market Eyes 大野 弘貴】中間期末の昨日、市場の話題の中心はトランプ大統領と民主党のバイデン氏による1回目のテレビ討論会だった。約1カ月後に迫る米大統領選を前に、今後の選挙戦を左右しうる可能性があるとして多くの注目を集めた。ただ、蓋を開けてみると互いに非難の応酬となる場面や度々論戦が中断する場面が見られた。CNNテレビの司会者は「史上最もカオスな討論会だった」と評した。
リアル・クリア・ポリティクス(RCP)がまとめる最新の各種世論調査の平均はバイデン氏が依然としてリードしているが、トランプ大統領との差が縮まりつつあった。しかし、この日にRCPが集計した米大統領選の勝利者予想(オッズ)の平均は、バイデン氏の勝利確率が29日から3.9ポイント上昇する結果となり、トランプ大統領との差を広げた。今後の世論調査でもバイデン氏がリードを拡大する可能性がある。
■忘れられる討論会
ユーラシア・グループは29日付リポートで「極めて闘争的な関係となった」との印象を示したものの、「今回の討論会は不快なトーン以外に記憶に残るような瞬間はほとんどなく、今後の選挙運動の中で忘れられることだろう」指摘。その上で、バイデン氏が(65%の確率で)大統領選に勝利するとの見方に変わりなく、今後数週間のうちに公表される世論調査でそのリードを広げれば可能性はさらに高まるとの見方を示した。
■「誰が勝利しても統治不能」
マッコーリーは30日付リポートで討論会後に英調査会社ユーガブが実施した世論調査でバイデン氏が「勝利した」と回答した割合が48%、トランプ氏が同41%、引き分けが10%だったことを引用し、「今回の討論会は、ここ最近の世論調査の結果を強く反映したものであり、目新しい変化はなかった」と指摘。
それでも討論会後にCMEの時間外取引でEミニ・ダウ工業株30種平均先物が下げ幅を拡大したことに触れ、「海外のトレーダーたちは、各候補者の明らかな敵意を、米国の政治体制の分断を反映していると捉えた」と指摘。「結果、誰が勝利しても米国は統治不能になる可能性が出てくる」との警戒を示した。これは、11月3日の大統領選後、直ちに結果が出ないことによる不確実性の高まりを想起させたとの見方も示している。
カウエンは米国における共和党・民主党間で進められている追加経済対策がまとまらず、11月3日の大統領選まで棚上げになるリスクを挙げた。
■「バイデンは市場に優しくない」は本当か
一層の混沌に陥ったように見える米大統領選。バイデン氏の大統領就任は、法人税率が引き上げられる可能性があることから「市場にアンフレンドリー」との声が多く聞かれる。そんな中、ゴールドマン・サックスは29日付リポートで、「多くの市場関係者は、バイデン氏が大統領選に勝利することで企業収益に大きな下方圧力がかかると考えているようだが、バイデン氏勝利に加え民主党が議会も制した場合、2024年までのS&P500種株価指数の1株利益(EPS)はトランプ大統領の下で想定されるEPS(222ドル)の4%分しか下回らない(214ドル)」と推計。「バイデン氏の掲げる法人税改革が導入されるのは22年から段階的になるとし、一方で実施される財政支出の大幅増は経済成長を促し、税率引き上げによる逆風を相殺する」との見方を示した。
大統領選の結果が判明するのは12月に入ってからとの見方もある。先行きが見通しにくい分、株価指数の上値は重くなる展開も想定されよう。マッコーリーが指摘したように、どちらの候補が勝利しても米国における分断は深刻なものになる可能性がある。それでも、ゴールドマンが指摘したように全体的な企業業績の改善基調に変化が見られない様であれば、本格的な下落トレンドにはならず、あくまでも調整との位置づけに留まろう。